新日本酒紀行「金紋秋田」酒蔵 Photo by Yohko Yamamoto

熟成と3倍麹、日本酒のうま味の複雑性で勝負を懸ける

 無名の蔵の熟成酒「山吹」が、2009年に英国で開催されたIWC(インターナショナルワインチャレンジ)日本酒部門で、名だたる大吟醸酒を抑えて最高賞を受賞した。出品したのは金紋秋田酒造3代目の佐々木孝さんだ。

 1989年、孝さんが30歳で蔵を継いだとき、酒は特徴がなく、営業力も技術力もなかった。香り華やかな大吟醸がブームだったが「同じことをしても勝ち目はない」と、正反対のうま味主体の熟成酒へと舵を切る。14年間熟成させた酒が濃醇な味に変わり、IWCで高評価を受けたが、売れ行きは伸び悩んだ。

 熟成酒を造り続けるうち、日本酒が持つうま味の複雑性が見えてきた。新しく造る酒もうま味を重視し、麹の量を3倍に増やす「X3」を開発。また、樽の種類によって熟成酒に新たな個性が加わるのでは?と、オーク樽や桜樽、栗樽などに熟成酒を注ぎ、再度熟成をかける二度熟成を試みた。すると、奥深い香りと豊かな味が加わり、熟成酒を進化させることができた。「VINTAGE SAKE YAMABUKI」と命名。フレンチやイタリアンとも相性が良く、国内外から引き合いが増えた。