100年後を見据えた新たな住まいと暮らし方

「家と街―100年後の街つくり―」の著者である的場敏行・株式会社NENGO代表取締役社長が、長期的な視点に立脚したこれからの家つくり、街つくりについて3回に渡って提言する連載の最終回は、これからの家、街つくりのあり様を考えるとともに、ユーザーの主体性を引き出す取組の事例を紹介する。

将来の家族構成や住まい方の変化と
ニーズを予想し住宅の仕様に反映

 100年経っても「住める、遊べる、働ける」家・街つくりを実現するためには、一つひとつの住宅について、“頑張りすぎない”ことが必要です。頑張るとは、例えば二世帯住宅や狭小住宅のような建物のことです。

 限られた面積の中に二世帯用の台所や寝室、子ども部屋等を「これでもか」と詰め込む。それはつまり「今の住人」のニーズに合わせた設計です。しかし、10年後に親が他界するか高齢者向け施設に転居することも考えられます。子どもが家を離れることもあります。無理して敷地内にしつらえた駐車場も、免許を返納すれば意味がありません。

 こうして10数年前に建てた頑張りすぎた間取りは、早くも暮らしには非合理となり、建替えたり更地にして売ったりと、スクラップ・アンド・ビルドされるのです。そのような資源や労働力の無駄を避ける意味からも、私たちは「究極の普通」を提案しています。10年後にライフスタイルが変化しても普通に住まえる。そうしたデザインや間取りこそが究極の普通です。

 今は子ども部屋として用いているスペースであっても、間仕切り等を変更して別の活用ができる、あるいは一部を誰かに貸せるような仕様をあらかじめ行うのです。庭や駐車場も同様です。リビングに面した庭に駐車場を設けておけば、クルマを手放した後に開放感のある前庭として活用できます。

100年後を見据えた新たな住まいと暮らし方自然由来の顔料からなるオーストラリア産の高級塗料「PORTER'S PAINTS」を内装にペイント。陰影のある質感や景色に馴染む色合いが多くの建築関係者の支持を得ている

 土地のオーナーには所有者意識を捨ててもらい、地域の「気候・風土・歴史・文化」をリスペクトした設計や仕様を実現してもらう。そのうえで、テナントや住人にも物件や地域を愛してもらうことで初めて、100年先を見据えた家・街つくりが実現化します。いくつか例をあげましょう。

 私たちは「ポーターズペイント」というオーストラリア産の高級塗料を取り扱っています。自然由来の顔料からなるペイントで、陰影のある質感や景色に馴染む色合いが多くの建築関係者の支持を得ています。一般の人でもメンテナンスしやすく、室内の壁などに住人自身の手で重ね塗りすることもできます。子どもが生まれた時、小学校入学時、成人した時など、折々に重ね塗りして室内の模様を自由に変えることができるのです。

 何かが壁にぶつかったりした際に昔塗ったペイントが現れて、「これはあなたの10歳の誕生日記念に塗った色だね」などと会話が弾み、家族の歴史を紡ぎます。このポーターズペイントはSNSを中心とした口コミで広がり続けており、ユーザーの主体的な家つくりへの参加につながっています。