すべての建物に解体制限期間を設けよう

都心部でも地方でも、まだ住める・使える家やオフィスビル等が取り壊され、建替えられている。少子高齢化が進む一方の日本で、いつまでこうしたスクラップ・アンド・ビルドを繰り返すのか? もっと地域になじんだ長く住める、遊べる、働ける家・街つくりはできないのだろうか? 本連載では、「家と街―100年後の街つくり―」の著者である的場敏行・株式会社NENGO代表取締役社長が、長期的な視点に立脚したこれからの家つくり、街つくりについて3回に渡って提言する。

脱スクラップ・アンド・ビルド
減価償却を脱し所有者意識も捨てる

 現在、建物の減価償却の期間は、木造の住宅では22年、鉄筋コンクリート製のマンションや商業ビル等では47年と一律で定められています。建設時の設計や仕様は言うに及ばず、その後のメンテナンスの具合等も物件ごとに様々であるにもかかわらず、一律の償却期間が過ぎた建物の価値は「ゼロ」と査定されてしまうのです。

 償却期間が過ぎたり近づいたりしている物件に対して、不動産会社や建設会社は「建て替えましょう、駐車場にしましょう」などと営業します。金融機関も古い建物には担保価値を見出さず融資に後ろ向きですが、新築への建替えとなると一転、融資に前向きになるという状況です。誘い文句の連発にオーナーもついその気になり、まだ使える・活かせる建物を、安易に新築に建て替えてしまうのです。

すべての建物に解体制限期間を設けよう築48年の物件を外観から内装までリノベーションした事例。内装のコンセプトは「デザインにこだわる入居者が快適な室温で暮らせる部屋」

「いつまでもこうしたスクラップ・アンド・ビルドを繰り返していてはいけない」と、私は声を大にして言い続けてきました。減価償却は、行政のご都合主義で設けられた簡易のモノサシでしかありません。現に償却期間を過ぎても、新築時と価値が同様かそれ以上の物件はあまたあります。私自身、57年前の1965年に設計された住宅をフルリノベーションして住んでいます。現在のNENGOの本社オフィスも築47年の3階建てビルの2~3階をリノベーションして蘇らせたものです。

 安易な建替えを防ぐ、減らす意味からも、私たちは「建物に解体制限期間を設けるべき」という提案をしています。具体的には木造なら50年、鉄筋コンクリート製なら100年が目安の数字です。いきなり「50年」「100年」と定めるのは強引なので最初は「木造10年」「鉄筋コンクリート20年」などとし、段階的に期間を伸ばします。相続といった止むを得ない状況で取り壊す場合は、相応のペナルティを課します。こうすれば、最初から50年、100年後を見据えた設計・仕様で建物が建てられることになり、日本人の「もったいない精神」とも合致するのではないでしょうか。

 まだ使える建物を安易に壊さないためには、オーナーにも所有者意識を捨ててもらう必要があります。「土地や建物は地域や地球からの借物」であり、私たちはそこに住まわせてもらっている。このように意識を変革することで、共鳴する地域の仲間が増えるだけでなく、その土地をリスペクトする姿勢に共感するテナントや住人が自然と集うようになるのです。