「部下との関係がギクシャクしている」「チームにまとまりがない」「上司が強権的で不快だ」…。こういった“職場のネガティブな感情”を「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用」の5つに分け、それぞれの対処法をまとめた『武器としての組織心理学』という書籍が話題だ。最先端のエビデンスをもとに、マネジメントする側、される側それぞれに向けたアイデアが丁寧に書かれている。本記事では、本書をもとに「自分の身を守ってくれる防具にも、人を動かす武器にもなる組織心理学」の活用法をご紹介する。(構成:瀬田かおる)

武器としての組織心理学Photo: Adobe Stock

チームに「温度差」を生むもの

「組織をまとめるのは難しい」。こう感じているリーダーは多いだろう。

 著者の山浦氏は、リーダーが「組織をまとめるのが難しい」と感じるポイントとして、「メンバーごとの温度差」を挙げている。

 たしかに、温度差のある集団が1つの目標に向かって進んでいくのは難しいだろう。

 本書には、チームに「温度差」を生む2つの要因が紹介されている。

①リーダーとの関係性

 リーダーと良好な関係を築けた部下は「身内(内集団)」、そうでない部下は「よそ者(外集団)」扱いされる。

 そして内集団は外集団に比べ、上司からの評価が高いため、仕事上の自分自身の役割を明確に認識できる。そのため、仕事に対する満足感や組織へのコミットメントが高いという。

 一方、よそ者扱いされた外集団はその逆の状況になるため、結果としてチームに温度差を生じてしまう。

②モチベーション

 メンバー全員が自分の仕事に興味を持てればいいが、時にはやりたくない仕事を任されることもある。

 どんな仕事であっても、仕事にやりがいを持って自発的に動くタイプと、他力本願なタイプがいる。

 これは仕方のないことで、メンバー同士が刺激し合う関係性をいかにつくるかがチームのパフォーマンスのために重要だと山浦氏は言う。

「温度差」を埋める4つのアクション

「温度差」を生む正体は分かった。

 では、どうしたらこの温度差を埋めてチーム全体のパフォーマンスを上げることができるのだろうか?

 本書で山浦氏は4つのアクションを紹介している。

1. あいさつの影響力

 まず、「あいさつ」を見直してみよう。あいさつには組織を安定させる重要な機能がある。

「おはよう」のひと言には、その日の仕事への不安や警戒心を緩和させる機能があり、「お疲れさま」と声をかけられれば、その相手とつながっている感覚を得られ、チームに受け入れてもらえたことを感じ取ることができる。

 さらにあいさつには、それぞれの立場で「互いが尊敬し合える関係である」と確認する機能があるという。

 コミュニケーションの基本中の基本といえるあいさつを丁寧に行っている組織は、心のゆとりがあるともいえ、それはチームの温度差を埋める役割をはたしている。

2. ベクトルを合わせる

 チームは、同じ目的や目標に向かうために存在している。

 もし、ベクトルが別々の方向を向いていたら力は分散され、メンバーは何のために頑張っているのか分からなくなってしまう。

 そのため、節目や区切りのタイミングでは「チームの目的や目標を再確認すること」が重要になる。その場で、チームのビジョンを浸透させられるとよい。

 再確認を行うことで、メンバーのベクトルの軌道修正ができ、組織は先に進むことができる。

 チームのビジョンが明確で、メンバーが腹落ちするまで浸透すれば、コミュニケーションの質が向上する。

 そして何か問題が発生しても、「ビジョンという軸」を持ったうえで物事を言い合える環境を作り出すことができる。

3. 情報共有を見直す

 組織で何か問題が起こったとき、「コミュニケーション不足で情報の共有が十分でなかったこと」が原因だという報告をよく耳にする。

 しかし現実には、モチベーションの異なるメンバーが存在する組織の場合、情報共有はあくまで必要最低限のコミュニケーションであり、重要なのは「温度差を埋めるコミュニケーション」なのである。

 本書には、このように書かれている。

冬に握手をすると、相手の手がどれほどあたたかく、自分の手がどれほど冷たいかが伝わってきます。そして、しばらく握り合っていると、お互いの手が少しずつ同じくらいの温度に変化していくのが静かに感じられます。コミュニケーションとは、この握手のように、相手の存在を認識してお互いの熱を伝え合うことです。(P.98)

 このたとえ話にある手の温度差とは、メンバーのモチベーションやスキル、経験値の違いのことを指している。

 つまり、メンバー同士が相手の熱を感じ取り、温度差を埋めるほどの十分なコミュニケーションがとれて初めて「情報共有」できた状態だと言えるのだ。

4. 人間関係の凸凹を埋める

 リーダーとの人間関係が良好な人たちと疎遠な人たちがチーム内に混在している場合、「注意すべきリスク」があるという。それぞれ見てみよう。

・関係性が良い場合のリスク
 部下と良好な関係だからと言って安心はできない。

 上司と良好な関係性を築いた部下が、その上司の期待に応えようとし、高い水準のストレス状態に陥っているケースはよく見られる。

 リーダーは、快く仕事を引き受けてくれるからといってそれに甘えることなく、部下の負担をしっかり考える必要がある。

・関係性が疎遠な場合のリスク
 不満を抱えたまま部下が仕事をしては、チームの温度差は広がるばかりだ。

 上司と疎遠な関係にある部下の場合、「上司の対応に差があっても仕方がないという一定の納得感」「自分の頑張りで、今よりも関係が良くなるはずという期待」の2つが重要になる。

 そして、この2つは、「色眼鏡で見るのではなく、部下を常に正当に評価できる力」を上司が持っていることで成り立つ。

 上司から見て、関係性が良いから問題ない、疎遠だから問題があるということではないことがわかる。それぞれのリスクに注意してマネジメントすることが大切だ。

上司と部下の人間関係

 ここまでチームの温度差について見てきたが、温度差を生み出す最大の要因は「上司と部下の人間関係」だ。

 リモートワークが浸透し、従来よりもリーダーの仕事は難しいものになっているかもしれない。

 ぜひ、本書のアドバイスを「まとまりのあるチーム」を作る参考としていただきたいと思う。