変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。

「サッカー日本代表森保監督」に学ぶ、多様なチームをマネジメントする極意Photo: Adobe Stock

各選手が自律的に考えて戦っているサッカー日本代表チーム

 サッカーは野球と違って、プレイの最中に監督が逐一指示をすることができません。サッカーでは基本的に、選手が自律的にピッチ上で判断しながらプレイを進める必要があります。

 また、サッカー日本代表チームの選手の多くは様々な海外のクラブに所属していて、全員で頻繁に集まって練習することもできません。

 そのような中、森保監督が率いる日本代表チームは、世界トップレベルの国を相手に引けを取らず、結果を出しています。まだ予選の最終戦を残している段階ではありますが、歴史的勝利を挙げたドイツ戦でも、惜しくも敗れてしまったコスタリカ戦でも、各選手が自律的に考え動き、堂々たる戦い方を見せてくれたのではないでしょうか。

規律がない限りアジャイルなチーム運営は機能しない

 少し前の話ですが、2006年のサッカーワールドカップでは、ジーコ監督率いる日本代表がブラジル代表と対戦しました。ジーコ監督は「組織」より「個」に重きを置いたチームづくりを掲げていました。

 自主性を重んじていたため、試合前の集合時間もバラバラで、ストレッチなどの準備運動も各々で実施していました。それに対して、世界で活躍するメンバーを擁したブラジル代表は決められた集合時間に集まり、集団で試合前の準備をルーチン通りに行っていました。

 試合が始まってからも両チームの差は顕著で、「個」で動く日本代表の選手に対して、ブラジル代表の選手は決められた戦術に沿って与えられた役割の中で、創造的なプレイを披露し観客を魅了していました。結果は4‐1でブラジル代表の圧勝でした。

 私はサッカーの専門家ではありませんし、当時の日本代表選手とブラジル代表選手の間には大きな実力差があったのも事実でしょう。

 ただ、ここで強調したいのは、個性の強いメンバーが集まったチームほど、規律という制約がない限り個性を発揮できないという点です。

 森保監督は、細かな戦術は選手の自主性に任せている一方で、以前から規律を重視していると耳にしたことがあります。サッカーの監督は、試合中の選手交代などの戦術面に注目が集まりがちですが、なかなか一堂に会する機会を持てない多様なメンバーをまとめるための規律の策定・浸透も重要な仕事の一つです。

規律を設定することでチームは創造性を発揮できる

 我々は既知の情報をもとに思考しているため、言葉通り「ゼロから」何かを構想することには慣れていません。ましてや、チームで何かを検討する際に規律(原則)や制約が切なければ、創造的な活動の難易度は大きく上がります。

 私がこれまでに支援してきたスタートアップや大企業内の新規事業でも、明確なビジョンがなく、資金や人員などの制約もない事業はほとんど成功したことがありません。一方、成功しているチームでは、ビジョンに加えて明確な規律が設定されています

 また、アジャイル仕事術の原型のアジャイル開発手法でも、全体の方針やプロトコルが整備されていないまま、現場に好き勝手やらせるだけではうまくいきません。単に現場に権限を委譲してしまうと、ユーザに言われるままに無駄な機能ばかりが統一感なく実装されてしまいます。

 自由だから創造的になれるのではありません。規律を設け、そのフィールドの中でメンバーが自律的に動けるようにすることで個々の個性、そしてチーム全体としての創造力を最大限に引き出しましょう。

アジャイル仕事術』では、規律を策定・浸透させる方法以外にも、多様なチームを運営するための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。