朝がどんより重い人と、朝から頭スッキリ、パフォーマンスを上げられる人の違いはどこからくるのだろうか。
レコード会社の社員時代はプロデューサーとして、ミリオンヒットを10回記録した後、絶調期にニュージーランドに移住。その後、12年かけてリモートワーク術を構築してきた四角大輔氏。
この連載では、四角氏のあたらしい著書『超ミニマル主義』の中から、「仕事術」「ワークスペース」「働き方」「スケジュールとタスク」「デバイスと情報」「思考と習慣」「超時短メソッド」「人付き合い」「ストレスと脳疲労」「ビジネス装備」「バカンスの取り方」「深く眠る技術」など、すべてを「手放し、効率化し、超集中する」ための【全技法】を紹介していきます。
「一番高い午前中の集中力」を利用して、
タスクやメール処理、事務的な業務を最短時間で終わらせる
人の集中力は、夜明けからピークを迎え、太陽が昇りきる頃から低下し始め、日没後に下がり切る。この人間の――脳を覚醒させるホルモンによる――生体特性をご存じだろうか(※1)。
なお、ここで言う「集中」とは「目の前の課題に意識を向けている状態」のことを指す。応用神経科学の専門家、青砥瑞人氏が「外に狭い集中」と呼ぶこの状態は、脳を激しく疲労させ、「環境」と「気分」両方の影響を受ける繊細なものだという(※2)。
さらに、朝は静かな時間帯で、気分は前向き。脳は、睡眠明けで一番フレッシュで元気な状態だ。だが、午後以降は脳の疲労度は増していき、パフォーマンスはどんどん下がっていく。
なのに多くの人が、貴重な午前中を雑に過ごしている。
“手と頭”を使って集中すべき静かな時間
筆者は、頭脳労働や創造性を要する仕事などの「1人で集中するタスク」を“ソロワーク”と呼び、午前中に取り組んできた。
会社員時代であれば、広告やビジュアルの指示書、プレゼン資料や企画書作成など、今は執筆やコンセプトメイキングなどが、それにあたる。
そして、この時間の「最高レベルの集中力」を利用して、メール処理などの避けられないタスクを、最短時間で終わらせている。
午後に比べると、その時短効果は圧倒的だ。
コロナ禍を受けて、在宅・テレワーク勤務になった方は、誰の目も気にせず、黙々とソロワークに集中しよう。
集中力が低下する時間帯
一方、日没以降は、脳の活動がスローダウンする。先史時代からずっと夜は暗闇で、動けなかったことも理由の1つだ。
だが現代の夜は、スイッチ1つで昼間のように明るくなり、手元には強烈なブルーライトを発するスマホがある。自律神経は「日光だ」と騙され、交感神経がONになって脳を稼働させようとするが、当然パフォーマンスは悪い。夜に無理やり意識を覚醒させても頭はまともに働かず、脳は激しく疲労する。
次のような経験はないだろうか。
「残業して書いた企画書を、翌朝見直すとヒドかった」
「夜中に悶々と書いた手紙を、翌朝に読み返すと赤面」
――慌てて書き直すと、あっという間にいいものができた。
電球が普及してから、まだ100年も経っていないため、250万年という長い人類の歴史においては、明るい照明は「最近の出来事」で、人間の体はこの状況に未対応なのだ。
夜を軽くすることで、朝が軽くなる
毎日20時半に寝て、朝5時に起きていた小学生の頃、母いわく「起きてる間はずっと動き回っていた」という活力を維持。
中高で初めて夜更かしするが、自分には合わないと即やめる。
大学では、お酒が弱く、コンパにはほぼ行けず。たまに仲間の飲み会に参加しても、眠気と闘いながら席にいるだけで疲れ果て、翌日は体が異常に重くなるため、夜がさらに苦手に。
レコード会社では、夜型の業界習慣の波にのまれていく。入社からしばらく「飲み会までが仕事」と連行され、初体験の「夜更かし×お酒」の洗礼で、謎の体調不良が次々と勃発。
30代に入って「NO」と言えるようになると、徐々に誘われなくなり、仕事の打ち上げや忘年会さえもうまく逃げて、自分のペースで「夜」と「朝」の時間を過ごせるようになっていく。
組織の行事に行かないのは、気がとがめるかもしれない。だが、自分の体調を守り抜くため、日中の生産性を高めるためには、夜の席を辞退する勇気を持つべきだ。
30代半ばでいよいよ、午前中を自分の仕事でフル活用できるようになる。ヒットメーカーと呼ばれるようになったのは、まさにそれ以降であった。
移住後にニュージーランドのナチュラルなワインを飲めるようになったが、39歳で退社するまで結局まともに飲めず。この「酒嫌い」が結果として、午前中の高いパフォーマンス維持に寄与していたことに、後で気付くこととなる。
「朝が決まれば、人生が決まる」
この言葉を信じて、ぜひ朝の軽量化に挑んでいただきたい。
※1 ショーン・スティーブンソン『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』ダイヤモンド社(2017)
※2 青砥瑞人『4 Focus 脳が冴えわたる4つの集中』KADOKAWA(2021)
『超ミニマル主義』では、「手放し、効率化し、超集中」するための全技法を紹介しています。ぜひチェックしてみてください。
(本原稿は、四角大輔著『超ミニマル主義』から一部抜粋したものです)
執筆家・環境保護アンバサダー
1970年、大阪の外れで生まれ、自然児として育つ。91年、獨協大学英語科入学後、バックパッキング登山とバンライフの虜になる。95年、ひどい赤面症のままソニーミュージック入社。社会性も音楽知識もないダメ営業マンから、異端のプロデューサーになり、削ぎ落とす技法でミリオンヒット10回を記録。2010年、すべてをリセットしてニュージーランドに移住し、湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営む。年の数ヵ月を移動生活に費やし、65ヵ国を訪れる。19年、約10年ぶりのリセットを敢行。CO2排出を省みて移動生活を中断。会社役員、プロデュース、連載など仕事の大半を手放し、自著の執筆、環境活動に専念する。21年、第一子誕生を受けて、ミニマル仕事術をさらに極め――週3日・午前中だけ働く――育児のための超時短ワークスタイルを実践。著書に、『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』(サンクチュアリ出版)、『人生やらなくていいリスト』(講談社)、『モバイルボヘミアン』(本田直之氏と共著、ライツ社)、『バックパッキング登山入門』(エイ出版社)など。