うつ病を克服し、偏差値29から東大に合格した杉山奈津子さんも、今や小学生の男の子の母。日々子育てに奮闘する中でとり入れている心理テクニックや教育方法をお届けします。今回は「子どもを伸ばすラベリング」についてです。杉山さん自身が心理カウンセラーとして学んできた学術的根拠も交えつつ語る『東大ママのラク&サボでも「できる子」になる育児法』も絶賛発売中です。ぜひご覧ください。
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子どもが「数学の問題が難しくて解けない」と悩んでいるときに、「お母さんも昔、できなかったから……」といった声かけをする人がいます。この後に続く言葉は、「あなたも解けなくて当然なのよ」でしょうか。子どもをなぐさめる優しい言葉のように聞こえますが、これでは単に、子どもが「解けないこと」を肯定しただけになってしまいます。
では、どのような言葉がけが有効かを考えてみましょう。こういうシーンでは、たとえうそでも、「お母さんは解けたから大丈夫だよ」という言い方が適当だと、私は思っています。これはつまり、「遺伝的に考えれば、お母さんが解けた問題はあなたも解けるから、安心してね」という意味になります。
「お母さんもできなかったから」と言ってしまうのは、「あなたの生まれ持った能力では、今後、その分野の教科を伸ばすことは難しい」と断言しているようなものです。そんな言い方をすれば、「それじゃあ遺伝的に考えて自分も解けないな」と思い込み、そこであきらめてしまうのではないでしょうか。それを「自分は遺伝的に考えても解けるはずだ」と捉え直すことができれば、もっと努力して頑張ってみよう、と思えることでしょう。
誤った決めつけは子どもの能力を埋もれさせる
「ラベリング」という心理学用語があります。「あなたはこういう人間だ」と人からラベルを貼られ、自分でもそのように信じてしまうと、実際にその通りの人間になってしまうというものです。
たとえば、理系科目が苦手な子に対して、「うちの家系はみんな文系だから仕方がないね」という言い方をすれば、「自分は数学や物理ができない人間だ」というラベルを貼ってしまうことになります。「自分は生まれつきできないのだ」という考え方は、できないことを正当化する逃げ道になってしまいます。その結果、せっかく伸ばすことができたかもしれない能力を、自分の中に埋もれさせたままにすることになるのです。