子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を紹介した新刊『子どもが幸せになることば』が、発売直後に連続重版が決まり、大きな注目を集めています。著者であり、4人の子を持つ田中茂樹氏は、20年、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けた医師・臨床心理士。

本記事では、本書が生まれたきっかけをお伝えします。(構成:編集部/今野良介)

「世界レベル」の子育て本があふれる中で

ある若いお父さんが、私に話してくれたことです。彼には3歳の娘さんがいます。

娘の絵本を買おうと立ち寄った書店でのこと。絵本コーナーの近くに育児本のコーナーがあり、そこに平積みされたたくさんの本のタイトルや帯の言葉、表紙の写真に圧倒されたと言います。

「びっくりしました。最近の子育て本はまるでビジネス書というか、それ以上ですね。マッチョ感と言いますか、親を急かすかのような上昇志向であふれていました。太いゴシック体で『最高』『最強』『頭が良くなる』などの言葉のオンパレード。外国人の子どもの写真、みっちり入った帯の宣伝文句。正直、私は親として、この棚の前で、息が詰まりました」

 

「世界レベル」の育児書があふれる中で<br />逆張りの本を書いた理由あなたの街の書店さん、「育児書コーナー」はどうなっていますか?

 

父親としての彼の直感に、私も深く同意します。

世界レベルの子育てやIQを高める子育てなど、いかめしい、はなばなしい言葉の意味するところは、そのような「方法」を使って親が子どもを導けば、「高い水準」に子どもをもっていけますよ、ということだと思います。

IQが高まったり「世界レベル」の子どもになれば、大人になって成功し、幸せになれるだろうと期待して、親はそのような本を読むのでしょう。

親を不安にさせるのは、受験や語学などの「お勉強」だけにとどまりません。

感性を磨く。芸術センスをよくする。正しい栄養バランスで健全な脳を育てるなど、子どものために「正しい子育て」の方法の知識は、生活の全般にわたります。

真面目な親ほどプレッシャーや不安を感じるのではないでしょうか。これらの本に書いてあるようにしてあげなければ、自分の子どもは幸せになれないのではないかとか、子どもに「良い環境」を与えてやれない自分は悪い親なのではないか、などの不安です。

私が『子どもが幸せになることば』という本を書いた目的は、そのような不安にとらわれている親に、少しでもラクになってもらいたいということです。育児を楽しむことを、親に提案することです。こうしたほうが「すばらしい子ども」になりますよ、という方法にあふれているけれど、それにとらわれることはありませんよと、専門家として提案したいのです。

どう育てることが子どもの幸せのために良いかを、全般にわたって「科学的に」検討することは、もちろん不可能です。いろいろな研究の結果がよく紹介されますが、それらは、あるいくつかの項目に絞って、その影響を大勢の人で調べた結果です。たとえば、毎日のように両親のけんかを見た子どもは、そうではない子どもよりも情緒が不安定である、のように。

本書で私が述べるのは、個人的な意見であって、そうした科学的根拠のある理論ではありません。ただし、この本の「はじめに」に詳しく書いていますが、まったくの当てずっぽうでは、もちろんありません。

子どもに勉強をさせようとか、スポーツを上達させようと、むきになって取り組まなくてもいい。その代わり、どうやって子どもを笑わせようか、どうやって喜ばせようかと、それだけを考えて、のん気に育児を楽しんでもいい。そのほうが、子どもは幸せになるし、親も育児の時間が楽しくなる。私がこの本でお伝えしたいのは、そういうことです。

カウンセリングや診察、子どもとの遊びでの関わり、自分自身の育児という経験を通して得た「専門家」としての、1つの意見です。

本を読んだだけで、すぐにその通りにできるとか、すぐに心がラクになるとか、そういうことはないと思います。

それでも、脳や心の専門家でも、こんなにラクに子育てをしているのかと知ってもらうことで、育児で不安になったり、追い詰められたりしている親が少しでもラクになればいいと、心から願っています。