病院の診察のイメージ写真「人工血液」が実用化されれば、より多くの命を救える可能性が高まる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

実用化されれば多くの人命を救うことができる可能性を秘めた「人工血液」を、日本人研究者が開発した。人命救助の現場における重大課題を解決し得る、その画期的な有用性についてご紹介したい。(イトモス研究所所長 小倉健一)

救命のボトルネック解決に期待
「人工血液」の実用化が見えてきた

 まさに、奇跡としか言いようがないのではないか。長年、世界中の研究機関が競い合うように研究を重ねてきた「人工血液」が、日本人の手によって実用化の段階へと入った。順調にいけば2027年ごろまでに実用化されるという。

 今回開発されたのは、「血小板」と呼ばれる血液の成分の一つで、傷を負った際に止血する役割を持つものだ。例えば、包丁で指を切ってしまった際に血液が体内から外部に流れ出たとき、空気に触れると血液が固まることはよく知られていると思う。

 もし血小板がなかったら、いつまでたっても血液は止まらず、大けがではなくても人間は大量出血で死んでしまうことになる。

 人間になくてはならないこの「血小板」であるが、保存できる期間が3~4日間しかない。その上、感染症リスクもあって非常に扱いづらく、医療現場では慢性的に不足しているものだ。

 筆者は、20年ほど前に血小板が極端に少なくなる難病に悩まされ、幾度となく血小板の輸血をした経験がある。その当時、医者から何度も「血小板は不足しているが、(筆者が)重篤な病気であるため、優先的に輸血を受けている」旨を告げられた。

 実際に、朝の血液検査で血小板が足りないことが判明するのだが、血小板が病院に到着するのは昼以降だった。到着まで、患者である筆者は、出血したら死を覚悟しなくてはならない状態が続いていた。

 また、人からの献血には、感染症や免疫副作用などのリスクが常に付きまとっていた。献血をしてもらえるのは大変ありがたいことではあり、感謝しかないのだが、やはり人間由来の血液製剤(ヒトの血液を原料として製造する医薬品)にはリスクもあった。

 今回、この人工血小板を開発したのが防衛医科大学校の木下学教授と早稲田大学の武岡真司教授を中心とするチームだ。慶應義塾大学輸血・細胞療法センター教授・センター長(当時)だった半田誠氏の先行研究を受けて、実用の一歩手前まで進めることができた。

 この人工血小板がいかに画期的な開発であるか、どれだけの人命を救うことができる有用性を持つかについて、ご説明したい。