唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。
外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント8万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊。たちまち8万部突破のベストセラーとなり、「朝日新聞 2021/10/4」『折々のことば』欄(鷲田清一氏)、NHK「ひるまえほっと」『中江有里のブックレビュー』(2021/10/11放送)、TBS「THE TIME,」『BOOKランキングコーナー』(第1位)(2021/10/12放送)でも紹介されるなど、話題を呼んでいる。
坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。好評連載のバックナンバーはこちらから。

血液はなぜ赤いのか?…「息を呑むほど美しい自然の摂理」から見えてくる納得の答えPhoto: Adobe Stock

透明な輸血

 輸血といえば、「赤い液体を体に入れるもの」と考える人が多いのではないだろうか?

 実は輸血の中には、赤い液体以外にも、透明~黄色っぽい液体を投与するケースもある、というと驚かれるかもしれない。

 血液の成分のうち、赤い色なのは赤血球だけである。「血液全体が赤いもの」と考えがちだが、実際には赤血球以外の成分に赤いものはない。

 例えば、擦りむいた傷から透明の液体が出てくることがあるだろう。滲出液と呼ばれるこの液体は、血液の一部である。傷を治すために必要な成分が、血管の壁を透過して外に出てきているのだ。赤血球が含まれないと、赤くはならない。

 では、そもそも血液は何でできているのだろうか?

 血液の約四五パーセントは細胞で、残りの五五パーセントを血漿と呼ぶ。細胞成分の大部分は赤血球であり、わずか一パーセントが白血球と血小板である。

 一方、血漿の九一パーセントは水で、残りは各種のタンパク質やブドウ糖、電解質など、さまざまな物質が含まれている。

 さて、現在行われる輸血は「成分輸血」と呼ばれるものである。血液を構成する成分のうち、足りないものだけを投与する方法だ。

 赤血球が足りない人には赤血球製剤を輸血し、血小板が足りない人には血小板製剤を輸血する。血漿製剤の輸血が必要な場合もある。この製剤のうち赤いのは、やはり赤血球製剤だけである。

「血液をそのまま輸血」はほとんどない

 医療ドラマで「血が足りなくなったら私の血液を使ってください」と家族が申し出るシーンを見ることがある。

 実際の医療現場でも、そのような申し出をいただくことがまれにあるのだが、今では血液をそのまま輸血する「全血輸血」は原則行われない。この「全血」から、かなりの手間をかけて各成分別の血液製剤をつくり、これを投与するのだ。

 まず献血で集めた血液から白血球を除去し、赤血球、血小板、血漿の各成分に分ける。次に、血液感染を起こすようなウイルス(HIVや肝炎ウイルスなど)や、細菌の混入がないかを確認する。

 HIVやB型・C型肝炎ウイルスなど、感染してもすぐに症状の現れない病原体は少なくない。献血を受けに来た人が、気づかないうちに感染しているかもしれないのだ。この検査で感染が疑わしいと判断されれば、血液製剤として使用できない。

 また、製剤に放射線照射を行うことも大切だ。放射線照射は、血液製剤の中に残った白血球が増殖する力を奪うために行う。最初の段階で白血球の大部分は除去できるものの、ゼロにはできないためだ。

 白血球の一種であるリンパ球は、体外からやってきた細菌やウイルスなどの異物をやっつける免疫機能を担う。これを他人の体に入れてしまうと、体の中でリンパ球が増殖し、攻撃を始めてしまうのだ。

 こうして全身で起こる重篤な反応を、GVHD(移植片対宿主病)という。放射線照射は、このGVHDを防ぐための処置である。

 なお、血液製剤にウイルスが混入するのを一〇〇パーセント防ぐのは不可能である。

 極めて頻度は低いものの、わずかな確率で検査をすり抜けるケースがあるためだ。特に感染したばかりの時期(ウインドウ期という)は、ウイルスの混入を検出するのが極めて難しい。

 よって、ウイルス感染の恐れがあると認識している人は献血に参加してはいけない。日本赤十字社では、過去六ヵ月間に不特定の異性または新たな異性との性的接触、男性どうしの性的接触、麻薬・覚醒剤の使用、HIV検査の結果が陽性(六ヵ月以前も含む)、そして、これらに該当する人と性的接触を持った人は、「献血をご遠慮いただく」条件として提示している(1)。

 肝炎ウイルスやHIV等の検査は、保健所などで受けることができる。各市町村で匿名・無料での窓口が用意されているのが一般的だ。検査を目的とする場合は、そちらに問い合わせることが推奨されている。