「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』が日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。

人気インフルエンサーをさらなる人気者に押し上げるSNSのメカニズムPhoto: Adobe Stock

人気コンテンツ、そうでないコンテンツの格差が広がっている

 ソーシャル・メディアのアルゴリズムは、人気のあるトピックや、トレンドになっているトピックにばかり注目を集める仕組みになっている。つまり、トピック間の不平等を拡大する仕組みだということだ。注意は、あらゆるトピックに平等に分配されるわけではない。その逆だ。わずかな数の人たち、わずかな数のコンテンツが、人々の注意の大部分を獲得してしまう。

 ソーシャル・メディアがなかった時代よりもその傾向がはるかに強くなっている。それは、人間が生まれつき持っている性質と、ソーシャル・メディアのアルゴリズムが組み合わさった結果である。

 私の友人であり、同僚でもあるバラバーシ・アルベルト・ラースローは、1998年にレカ・アルバートとの共同研究によって、ネットワークを支配する「優先アタッチメント(1)」という原理を発見した。これは、人間は、ソーシャル・ネットワーク上ですでに人気を得ている人とつながりやすい、という原理である。つまり、金持ちがますます金持ちになっていくのと同じように、人気者がますます人気者になっていく、ということだ。

 注意は元来、平等に得られるものではなく、その不平等をハイプ・マシンのアルゴリズムが拡大する。ソーシャル・メディアには友達推薦の機能があるが、この機能は、すでに友達が多い人にほど有用になる。友達が多ければ、友達の友達も多いので、推薦できる人が増えるからだ。その結果、すでに多くの人とつながっている人は、ますます多くの人たちとつながっていくことになる。

 人に向けられる注意と同じように、コンテンツに向けられる注意もやはり不平等である。アルゴリズムが好んで選ぶのは、多くのエンゲージメントを得るコンテンツ、「いいね!」やコメントが多くつき、シェアも多くされるコンテンツである。そういうコンテンツはニュースフィードに表示されやすく、シェアも多くされる。コンテンツの人気のハイプ・ループが起こるので、不平等はますます大きくなる。

 それに加え、トレンドのアルゴリズムがさらに「金持ちがますます金持ちになる」という傾向を強める。すでにほかよりも多くの注意を集めているコンテンツをリストに入れて皆に知らせ、さらに多くの注意を集めるからだ。

 私の同僚、クリスティーナ・ラーマンと、リンホン・チューは、ツイッターのアテンション・エコノミーについて共同で研究したが、その結果をまとめた論文にはこう書かれている。「圧倒的多数のユーザーはまったく注意を得ることができない一方で、上位1パーセントのユーザーは、下位99パーセントをすべて合わせたより多く注意を得ている(2)」。これは、ハイプ・マシンの集合知に与える影響を知るうえで重要な事実である。詳しくは次の第10章で触れる。

注目が集まるコンテンツの共通点

「注意」はいわばソーシャル・メディアのエンジンである。では、ソーシャル・メディアで人々の注意を引くコンテンツにはどういう特徴があるのだろうか。私はフェイク・ニュースについて10年にわたって研究するなかで、その問いへの答えを見つけた。

 多くの人が注意を引かれ、共有したくなるコンテンツには総じて、衝撃的驚異的予想外猥褻といった特徴がある。すでになじみがあるものよりは、目新しいものに注意を引かれる人が多い。ただ、新奇性が重要だということは、その研究以前から認識していた。

会社に収益をもたらす人の意外な共通点

 2011年、私はマーシャル・ヴァン・アルスティーンとの研究によって、仕事の生産性を高めるのに新奇な情報が非常に有用である(3)ことを発見している。私たちは、ある管理職専門の人材スカウト企業のヘッドハンターたちがやりとりするEメールを5年にわたって調査した。メールのなかに新奇な情報がどのくらい含まれているかを調べたのである。

 それでわかったのは、やりとりされるメールに新奇な情報が多く含まれている人ほどプロジェクトの進行が速く、会社に多くの収益をもたらしていたということだ。新奇な情報が生産性を高める要因になっていると断言することはできないが、明らかな相関関係が見られることは確かだ。私はその後、パラムヴィア・ディロンとともに、裏づけのためまったく別の業界の企業を対象に同様の調査を実施したが(4)、結果はやはり同じだった。

 この二つの研究結果によって、私の同僚、ロナルド・バートの「結びつきの弱い人間関係は重要である。新奇な情報は、結びつきの弱い人によってもたらされるからだ」という長年の主張の正しさが裏づけられたと言えるだろう。ソーシャル・メディアでもまさにそのとおりのことが起きている(詳しくは第3章を参照)。

 ネットワークに一定以上の人が参加すると、つながりが密な集団と、集団と集団の緩やかな結びつきの両方が生じる。集団と集団を緩く結びつける人は「コネクター」「ブローカー」などと呼ばれる。集団に新奇な情報をもたらすのはその種の人たちだ。異質な集団と接触する機会が多いので、その分、新奇な情報を多く得られるからだ。

 ある集団では当たり前のことが、別の集団ではまったくそうでない、ということは多いだろう。ブローカーがいると、その集団の既存の知識だけでは手に負えない問題を解決できることもある。イノベーションが起きるということだ。世界観を新しくしてくれるうえ、問題解決に役立つ新奇な情報は、どうしても私たちの注意を強く引きつけることになる。注意が新奇性の高い情報に集まるのは当然のことだとも言える。

ただし、長く注意を引くのは「結びつきの強い人」からの情報

 しかし注意を強く引きつける情報が、注意を長く引きつけるとはかぎらない。最初の衝撃が大きくても、結局、その人にとってさほど価値のない情報もあるからだ。ローカルのネットワーク効果が生じるのは、人と人とが強く結びついた時だ(5)。弱い結びつきから生じることはない。どの人にとっても、身近な人たちとの長期的な関係が重要なので、その人たちに関する情報には価値がある。

 たとえば、有名人からもたらされる情報には確かに一時的には強く注意を引きつけられるが、その人との関係が薄ければ、長期的には情報の価値は低くなる。マイクロインフルエンサーのほうが有名インフルエンサーよりも強いエンゲージメントを得ることが多いのはそのためだ。

 複雑な仕事に取り組む場合には、結びつきの強い集団で取り組むほうが生産性が上がる。コミュニケーションは当然、結びつきの強い集団内のほうが、結びつきの弱い他の集団とのあいだよりも活発になるだろう。つまり、新奇性の高い情報は確かに注意を引くが、それはあくまで一時的で、結局、長く注意を引くのは、結びつきの強い人たちからの情報ということである

参考文献
(1) Albert-Laszlo Barabasi and Reka Albert, “Emergence of Scaling in Random Networks,” Science 286, no. 5439(1999): 509-12.
(2) Linhong Zhu and Kristina Lerman, “Attention Inequality in Social Media,” arXiv:1601.07200(2016).
(3) Sinan Aral and Marshall Van Alstyne, “The Diversity-Bandwidth Trade-Off,” American Journal of Sociology 117, no. 1(2011): 90-171.
(4) Sinan Aral and Paramveer S. Dhillon, “Social Influence Maximization Under Empirical Influence Models,” Nature Human Behaviour 2, no. 6(2018): 375-82.
(5) Lynn Wu et al., “Mining Face-to-Face Interaction Networks Using Sociometric Badges: Predicting Productivity in an IT Configuration Task,” in Proceedings of the 29th Annual International Conference on Information Systems(Paris, 2008).

(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)