岸田政権28.9兆円補正予算案が「危機感なし・的外れ」な理由岸田文雄首相 Photo:Lauren DeCicca/gettyimages

21日から審議が始まった令和4年度第2次予算案の中身はあまりに危機感のない、緊張感のない内容であると筆者は考える。その理由を詳しく解説していこう。(政策コンサルタント 室伏謙一)

審議内容はズレた対策ばかり

 10月28日に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」、令和4年度の第2次補正予算として編成され、国会に提出され、審議されている。一般会計の歳出総額は28兆9222億円で、ちまたではやれバラマキだのポピュリズムだのと、どこぞの行政機関の意向を忖度(そんたく)したかのような「専門家」の方々らの見解が待ってましたとばかりにはびこっているが、その中身を概観すると、目の前にある我が国の危機的状況など、全く無視したとまでは言わないが、極めて軽く考えた、お花畑的な、ズレた対策ばかりである。

 その総額は、事業規模71.6兆円、財政支出は39兆円程度とされているが、純粋な国費該当部分は29.6兆円。財務省はもっと小さな額で、与党の議論をすっ飛ばして確定させようとう極めて姑息で悪質なことを考えていたが、それが岸田首相から萩生田政調会長へという流れでバレて、ちょこっと増やして確定したもの。萩生田政調会長のご尽力には敬意を表したいが、政府、特に財務省の危機感のなさ、国家観の欠如の表れと言ってもいいだろう(一方で、無用のというか起こり得ない、間違った危機感だけはずっと持ち続けて、この国をどんどん衰退させることには一生懸命なようだが)。

 まず、総合経済対策の第1章「経済の現状認識と経済対策の基本的考え方」において、「本年春先以降は、ウィズコロナの下、社会経済活動の正常化が進みつつあり、サービス消費を中心に回復の動きがみられる」としている。しかし、何を根拠にこんなことを書いているのだろうか。10月31日に発表になった総務省のサービス産業動向調査の令和4年8月分の速報値によれば、サービス産業全体の月間の売上高は前年同月と比べて7.2%増加、金額にして30.9兆円増えている。特に宿泊業、飲食サービス業の増加率が31.0%と著しく、次いで運輸業、郵便業の16.3%となっている。これだけを見ると、同対策の記述はもっとものように読めるかもしれない。

 しかし、思い出してほしいのは、昨年の8月はどういう状況だったのかということ。新型コロナ感染拡大防止対策としての緊急事態宣言の延長に次ぐ延長で、対象区域も拡大されていた時期であった。観光地は閑古鳥が鳴き、ホテルや旅館はガラガラ、新幹線や優等列車も乗客よりも空席の方が多いのが当たり前になり、1車両に数名しか乗っていないということも普通であった。時短営業とアルコールの提供制限により飲食店街も閑古鳥が鳴き、飲食店を訪れる客もまばらという状況であった。

 そして本年8月はといえば、緊急事態宣言もなく、まさに実質的に「ウィズコロナ」の状況であり、観光地にも飲食店にも、コロナ前ほどではないもののある程度客は戻ってきていたし、新幹線は列車や時間帯によってはほぼ満席というものもあった。

 要するに前年同月と本年同月では状況が180度くらい違うということであり、両者を比較すれば後者の方が、売上高が大幅に増えるのは当たり前である。しかし、昨年失われた売り上げは戻ってはこない。今でも新型コロナへの感染を懸念して飲食店を利用するのを控える人はいるし、飲食店側も席数を減らしているところもあるので、飲食店への客足は戻っていない。

 こうしたことを踏まえれば、「サービス消費を中心に回復の動きがみられる」などとは軽々に書くことはできないはずだが、臆面もなく冒頭からそんなことを書くというのは、この対策が、ご都合主義、極めて楽観的な認識に基づくものであり、少なくとも「総合経済」対策とはなっていないことの証左といえよう。