変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。
リスキリングとは転職のための学び直しではない
経済産業省の審議会資料には、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と記載されています。
また、同資料には「近年では、特にデジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えている」とも記載されています。
本連載でも繰り返し解説しているように、デジタル化とグローバル化によって、産業の垣根がなくなり、業務はルーチン型からプロジェクト型へと変わり、チーム組成の方法から報酬の支払い方まで、大きな変化を遂げています。
リスキリングとは、そのような新しい働き方が求められる世界に必要なスキルを身につけることに他なりません。これまでの職業や会社を前提とした転職や転社のための学び直しではありません。
多くのスキルの価値が低減してきている
私が新卒で経営コンサルティング会社に就職した20年前は、企業の財務分析をするためには有価証券報告書を探して、エクセルに必要な数値を入力する必要がありました。クライアント企業のホストコンピューターから大量のデータをダウンロードして、アクセスやエクセルのプログラムを組むこともありました。
しかし、時代が変わり、今ではCapital IQのようなデータベースにアクセスすれば、企業分析に必要なデータはボタン一つでダウンロード可能です。企業価値評価のための財務モデルも自動生成してくれます。クライアント企業が導入しているBIツールを使えば、必要に応じて誰でもデータ分析ができるようになりました。
かつては必死に勉強したプログラミング言語も、ソースコードの記述が不要なノーコード開発を使ったり、インドの開発会社に依頼したりすれば、自ら習得する必要はありません。英語の通訳や翻訳にしても、DeepLやポケトークといったツールの精度はかなりのレベルまで上がっています。
すべての仕事が、今後人工知能やロボット、海外の低コストな人材に置き換わるというつもりはありませんが、デジタル化とグローバル化によって、かつては重宝された多くのスキルの価値が低減していることは疑いようがありません。
身につける必要のないスキルを正確に見極める
不透明で変化の激しい時代に他者との差別化を図り続けるには、外部パートナーに任せたほうがいいスキルと自ら身につけるべきスキルとを明確に見極めましょう。調べれば分かるものは調べ方だけを習得し、その分別のスキルを身につけることで、時代に合わせて自分を進化させ続けることが重要です。
もっと言うと、本連載のテーマであるアジャイル仕事術の5つの能力である「構想力×俊敏力×適応力×連携力×共創力」を身につけていれば、それ以外は全て外部パートナーに任せられる時代が来ています。
『アジャイル仕事術』では、人生100年時代を生き抜くための技術をたくさん紹介しています。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。