地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。
粘液のような海
単細胞の真核生物も、バクテリアも、ふつうに存在しつづけていた。ただ、多細胞の状態が、奇異なものではなく、より一般的になったというだけのことだ。
10億年前、粘液のような海のなかで、ときおり、海藻を目にしただろう。8億年前には、海藻はどこでも見られるようになった。
5億年前には、海藻のまわりが動物でいっぱいになり、肉眼で確認できるほど大きな動物もいた。
生命は複雑な進化の過程で、着々と次のステップへの準備を進めていた。
はるかむかしに
バクテリアが組み合わさって真核生物が生まれ、それが組み合わさって多細胞の動物、植物、菌類が生まれた。
それと同じように、地球生命の最後の時代に、このような生き物たちが組み合わさり、想像もつかないような力と効率を持った、全く新しい種類の生き物が生まれることになる。
その種は、はるかむかしに蒔かれていた。
大地に広がる菌類
上陸して間もない植物は、根に付着する菌根という、地中の菌類と密接な関係を結ぶと、より暮らしやすくなることを発見した。
植物は光合成によって菌根の菌類に栄養を与える。菌類は地中深くから微量のミネラルを採取して植物に与える。
現在、ほとんどの陸上植物は、菌根菌と関わりを持っており、それなしには生きていかれない。
次に森を歩くときは、足元の地面で、さまざまな植物の菌根菌がつながって、養分を交換し、森全体の生育を制御していることに思いをはせてほしい。
森は、木々も菌根菌も含め、一つの超生物とみなすことができるのだ。
1500年以上も生きる
菌類は、きわめて広範囲にわたり、生命を調節する能力を持っている。
もっとも大きな生き物として知られているのは、ヤワナラタケという菌の個体で、その微細な菌糸は、ミシガン州北部の森林の15ヘクタールもの面積に広がっている。
誰もそんなものがあることにすら気づかないが、総質量は10トン以上あり、なんと1500年以上も生きている。
いま個体といったが、実は、この菌類を個体として定義することは難しい。
菌類の糸は、目に見えず、侵入し、疑われもせず、あらゆる場所に広がり、闇と土に埋もれながら、ひそかに巨大な連合体を形成しているからだ。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)