地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。
ホビットと巨人
フローレス島やルソン島、そしてほぼ確実にほかの場所でも、ホモ・エレクトゥスは孤立すると小さくなり、小人やホビットみたいな姿へと変化していった。
しかし、それ以外の場所では巨人化した。
西ヨーロッパでは、ホモ・アンテセッサーというたくましい生き物に姿を変え、祖先が住んでいた温暖なサバンナをはるかに越えた領域に生息していた。
八〇万年ほど前に、まだどのホモ属も足を踏み入れたことのなかった、はるか北の地、イングランド東部に手斧と足跡を残している。ホモ・アンテセッサーは屈強だが、妙に見覚えのある感じで、ホモ・エレクトゥスよりも、氷河時代の穴居生活をきわめたネアンデルタール人や現代人に近い姿をしていた。
私たち人間の人相には、遺伝子と同じように、深いルーツがある。ホモ・アンテセッサーには、現生人類と遺伝的に親族関係があることを示す最初の兆候が見られる。
フェンスの支柱みたいな太い槍
やや遅れて、ヨーロッパのほかの地域にあらわれたのがホモ・ハイデルベルゲンシスだ。ヨーロッパの中心部から出土する骨や道具は、彼らが実に手ごわい存在であったことを示している。
石器や屠殺された馬の遺骸とともにドイツで保存されている、およそ四〇万年前の狩猟用の投げヤリは、私たちから見るとむしろフェンスの支柱に近い[1]。
投げヤリは、なかには長さ二・三メートル、もっとも太い部分の直径が五センチメートルに達するものもあるが、突き刺すのではなく、投げるように設計されていた。
このような武器を持ち上げて戦いに使うには、相当な力が必要だったはずだ。
イングランド南部から出土したすねの骨は、現代人の成人男性とほぼ同じ大きさだが、密度がより高く厚みがあることから、体重が八〇キログラム以上のきわめて頑丈な個体だったことがわかる。
ユーラシア大陸の反対側、満州の雪原では、現代人でもいちばん背が高い人々と同じくらいの背丈の図体の大きな人々が闊歩していた。そのころ、地球には巨人がいたわけだ。
【参考文献】
[1] H. Thieme, ‘Lower Palaeolithic hunting spears from Germany’, Nature 385, 807–810, 1997を参照。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)