景気の低迷、続く低金利、急速なインフレ……。現在の日本に生きるすべての人にとって、将来の資産問題は避けては通れないものである。30年間で2000万円が必要とした金融庁のレポートから話題となった「老後2000万円問題」は、先行き不透明な公的年金には頼れず、個人が資産の長期的な管理や運用を行う必要があることを浮き彫りにした。
『ESG投資 持続可能な将来設計』(富国生命投資顧問 編)は、最近とみに注目を集めているESG投資について、わかりやすく解説した書籍だ。企業をサステナビリティ――持続可能性――の視点で精査し投資対象とするESG投資は、その将来性と信頼性の高さから長期運用の観点でも関心を集めている。
日本市場におけるESG投資のパイオニアである富国生命投資顧問の奥本郷司代表取締役社長に書籍刊行にあたっての思いを聞いた。

企業のサステナビリティを評価するESG
市場が大きく動いたのは2015年

 ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字を合わせた言葉です。企業が長期的に成長を続けていくためにはサステナビリティを強く意識することが不可欠で、環境、社会、企業統治に対する個々の取り組みをしっかりと調査・分析・評価し、企業を投資対象として厳選したものがESG投資です。

ESGの概念図ESGの概念図
拡大画像表示

 ESGという言葉がクローズアップされるようになったのは、2006年にコフィー・アナン国連事務総長(当時)がPRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)を提唱したことが大きなきっかけとなりました。特に環境問題に注意を払っていた国連が、ESGに関する課題の解決に取り組む姿勢を投資対象選定の判断材料に採り入れるべきだと明示したものです。

PRI署名数の推移PRI署名数の推移
※2022年は10月末時点
拡大画像表示

 2014年に金融庁が「責任ある機関投資家」として実行すべき原則を記した日本版スチュワードシップ・コードを制定し、2015年には金融庁と東京証券取引所が共同で、上場企業が行うべき企業統治のガイドラインとしてコーポレートガバナンス・コードの原案を公表するなど、日本国内でもガバナンスや持続的な成長に対する意識を高めるための規範が整備されました。

 こうして環境が整備されていく中、2015年には日本国内でESG投資が広く浸透する大きなきっかけとなった出来事もありました。世界最大規模となる公的年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国連のPRIに署名したことです。超大口投資家でもあるGPIFのPRI署名は、日本を含めた世界中の年金基金とその委託先にとっても影響が大きく、続々とPRIに署名する機関は増加し、そのことがESG投資の拡大を後押ししています。