人的資本の情報開示で日本企業はどのように変わっていくか

人的資本経営は、経営者だけの問題ではない。若手・中堅が今すぐ取り組むべき5つのこと濱松誠(はままつ・まこと)
ONE JAPAN 共同発起人・共同代表
1982年京都生まれ。2006年パナソニックに入社。海外営業、採用や人材・組織開発、同社で初となるベンチャー出向、家電部門での事業開発に従事。本業の傍ら、2012年、組織活性化とオープンイノベーションをねらいとした有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。2016年「ONE JAPAN」を設立、代表に就任。共創や人材育成、意識調査や提言など、「挑戦の文化をつくる」というミッションの実現に向け活動している。2018年にパナソニックを退社。2019年から約1年間、夫婦で世界一周の旅に出る。現在は、大企業に人材・組織開発を行うほか、ベンチャーの支援もしている。日経ビジネス「2017年 次代を創る100人」に選出。一児の父。 写真:伊藤 淳

濱松 澤田さんのお話で、篠田さんと伊藤さんは何がポイントだと感じましたか?

篠田 澤田さんのお話を聞いた皆さんは、こう思ったかもしれません。「花王には澤田さんのような経営者がいるから変革できる」「うちの会社では難しい」と。しかし、私たち一人ひとりが今からできることを先ほどのお話から学びとることができます。そのポイントは、「対話」です。似た言葉に「会話」がありますが、その定義は異なります。「会話」は、価値観が同じであるという前提で行うコミュニケーションであるのに対し、「対話」は価値観が違うかもしれないという前提で行うコミュニケーションです。対話は、まず相手の話を聞いてフラットに知り、他者を通して自分自身の価値観も知ることを目指して行います。

 そうした対話を重ねることで、会社が掲げる抽象的な方向性を腹落ちさせられる。それが、「Sawada Salon」で行われていることなのです。同じ話を聞いても各々の理解は異なるからこそ、学び合える。これは今、隣にいる人の話を聴くことから始められることです。対話を積み重ねることで、抽象的なテーマや目標も理解できるようになるはず。それが人的資本経営に直結するのだと私は考えています。

伊藤 澤田さんは間違いなく、人的資本経営における日本のフロントランナーです。そのため、「うちの経営者とはずいぶん違うな」と感じる人も多いでしょう。しかし、いずれ日本全体が変わります。自社の社長がまだ人的資本経営について理解していないようなら、社長秘書に頼んで、人材版伊藤レポートを机の上に置いてもらってください。そうすると社長もさすがに読まざるを得ない。そして「これは取り組まなければならない」と思ってもらうのです。これこそ、今すぐできることではないでしょうか。

 今後、人的資本に関する情報開示が始まります。この情報開示は、大きな潜在力を持っています。なぜなら、開示した情報によっては投資家に失望されてしまう可能性があるからです。そのような事態を防ぐために、人的資本経営の実態を高めてから情報開示したいと思うのが経営者というもの。これを、情報開示のフィードバック効果、あるいは「インフォメーション・インダクタンス」と言います。情報開示には、人の行動を誘発する効果があるのです。

 まずは上場企業が情報開示を始めます。しかし、未上場企業もいずれ人的資本の情報開示を行うようになり、それに伴って実態もレベルアップするはず。そのようにして日本企業が連鎖的に変わっていくと私は信じています。皆さんも変わる準備をしてください。会社も変わっていきますから。そして、ONE JAPANのようにさまざまなキャリアを持つ集まりの中で対話を行い、ご自身のキャリアデザインに生かしてほしいですね。皆さんが持つナレッジや経験・体験はそれぞれ異なります。互いを認め合い、学び合うことが大切です。そのような文化が日本に根付いていくことを願います。