人的資本経営実現のため、若手・中堅が今すぐ取り組むべき5つのこと
濱松 「私の会社に澤田さんのような方がいない」「経営者にはやる気があるものの、人事や中間管理職の理解が進んでいない」など、さまざまな意見があると思います。最後に、若手・中堅や中間管理職に向けて、人的資本経営を進めていくために今すべきことやメッセージをお願いします。
篠田 先ほど、現場にいる私たちが人的資本経営を実践するためにすべきことは「対話」だとお伝えしました。対話を行うためには「聴く」ことがポイントになります。しかし、上司あるいは先輩の立場になった瞬間、自身の経験が正義・正解となってしまい、話を聞きながらも「違う」「わかっていない」といった反応をしたくなることが多いと思います。でもそれを一旦心に留めておき、部下や後輩の話をしっかり聴きましょう。対話が心に火を灯し、会社の方針を自分ごと化できるようになったとき、仕事が面白くなり、結果的に企業の人的資本も高まっていくはずです。
澤田 まず伝えておきたいのは、皆さんの会社の経営者も私と同様に「人が大切だ」と考えているということです。さまざまな経営トップの方とお話しする機会がありますが、そのたびに経営者は自社のメンバーのことを常に考えているものだと感じます。ただ、大切にするための施策をどう実現していくか、この道筋が違うだけ。安心してほしいと思います。
人的資本経営を進めるにあたっては、いくつかのブレーキが存在すると考えています。1つは、皆さんのやるべきことが多くなりすぎていること。多様な製品を開発・販売する一方、ガバナンスやコンプライアンスに関する縛りが厳しくなり、対応すべきことも増えている。その結果、本当にやるべきこと、やりたいことが実現しづらい環境になっているのだと思います。メリハリをつけて業務を行わなければ、いずれパンクしてしまうでしょう。今いる3合目より上に登っていくためには、経営者も含めて業務整理が必要です。
そして、自分の会社の内側から見るだけでなく、外側から見ることも重要です。その点、ONE JAPANの活動は非常に意義があると思います。中間にいるマネジメント層も、管理から支援へと考え方をシフトすれば、メンバーに対しての捉え方が変わってくるでしょう。物事は自分の捉え方ひとつで大きく変わります。
最近はメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へシフトすべきとの声が上がっていますが、私は懐疑的です。人的資本を大切にするのであれば、メンバーシップ型を進化させたほうがいいのではないかと思うからです。日本らしく成長するためには、ジョブ型を挟みながらも、最終的に進化版メンバーシップ型雇用を行うのが最も理想的ではないでしょうか。
伊藤 人的資本経営の核となるのは、皆さんが自分自身でキャリアを選ぶこと、すなわちキャリアオーナーシップです。すぐには実現できないかもしれませんが、常に心がけていただきたいことが5つあります。まず1つ目は、主体性を持つことです。自分のことは自ら考えて行動しましょう。2つ目は、両利きであること。今持っているスキルを深く磨いていきつつ、新たなスキルを獲得してほしいと考えています。3つ目は、社交性を持つこと。多様な人と交流することは、脳を刺激し発想をポジティブにしてくれます。4つ目は、想像力を大切にすることです。「far analogy=遠い類比」と呼んでいますが、自分の専門と関係のない話を聞いて勉強し、想像力を駆使して仕事に活用していただきたいのです。最後は挑戦力。Try&Errorではなく、Try&Learnです。挑戦して学習する。これが日本企業に必要なポジティブな企業文化だと考えています。これらを胸に進んでいただきたいというのが、私からのメッセージです。
先ほど澤田さんから進化版メンバーシップ型雇用の話がありましたが、私も同意見です。従来のメンバーシップ型雇用をモデル1.0とすれば、欧米のジョブ型雇用はモデル2.0、そして進化版メンバーシップ型雇用がモデル3.0。このモデル3.0について皆さんにお話しできる機会を設けられるよう研究を進めていくことを、私のコミットメントとして最後にお伝えしておきます。
濱松 若手・中堅社員の皆さんは、「ミドル層が動いてくれない」ともどかしい気持ちを抱いているかもしれません。しかし、日本IBM社長の山口昭夫さんからこのような話を聞きました。「これまでは営業目標を達成できなかったら叱責していたが、最近はそれを180度転換した。できなかった理由を問うのではなく、何をしたらできたのか訊ねるようにした。そして企業はその実現のために必要なすべてを支援する、という姿勢に変えた」と。この話は、経営者やミドル層に責任を丸投げするのではなく、私たち全員にできることがあるのだと示唆しています。皆さんも、ぜひ今日からできることを実践してみてください。