心理的安全性の高い組織とは?「うちの会社は変わらない」を変える組織文化のつくり方デザイン:McCANN MILLENNIALS

心理的安全性が担保されている環境では、個人・チームのパフォーマンスも向上するというが、果たして心理的安全性の高い組織とはどのようにつくっていくのか。そもそも、組織文化とは意図してつくれるものなのだろうか。
『大企業ハック大全』刊行に先駆けて、2021年10月31日に開催されたONE JAPAN CONFERENCE 2021では、石井遼介氏(株式会社ZENTech 取締役)、唐澤俊輔氏(Almoha LLC 共同創業者 兼 COO/デジタル庁 人事・組織開発)、中村朱美氏(株式会社minitts代表取締役/佰食屋創業者)をパネリストに迎え、塩瀬隆之氏(京都大学 総合博物館 准教授)進行のもと、組織における心理的安全性や組織文化のつくり方についてディスカッションを行った。(構成/廣畑七絵)

心理的安全性の専門家から、組織文化づくりのプロフェッショナルまで

心理的安全性の高い組織とは?「うちの会社は変わらない」を変える組織文化のつくり方石井遼介(いしい・りょうすけ)
株式会社ZENTech 取締役
東京大学工学部卒。シンガポール国立大経営学修士(MBA)。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発。ビジネス・スポーツ領域で成果の出る組織・チーム構築を推進。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。書籍『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)は16刷・8万部を記録し、読者が選ぶビジネス書グランプリ「マネジメント部門賞」受賞、HRアワード2021「書籍部門」入賞。

石井遼介氏(以下石井):ZENTechという会社の取締役をやっております石井です。今日は心理的安全性や心理的柔軟性の専門家と思っていただければと思います。ZENTechは企業理念に「世界を、全機現する。」という言葉を置いています。「全機現」というのは禅の言葉で、ての能をすという意味なんですね。我々は、組織や会社に所属している一人ひとりが持っている、才能や情熱、ポテンシャル、それらをフルに発揮できるチームづくりを支援したいということで、心理的安全性をテーマに取り組んでいます。

中村朱美氏(以下中村):株式会社minitts、佰食屋の中村朱美と申します。私が運営しているのは、1日100食限定のお店、佰食屋です。私たちは、真の働き方改革とは、働き方を自分で決めることだということをテーマにしています。

 エピソードをひとつご紹介します。ある日、うちの従業員の20歳の男性から電話がかかってきました。こんな遅い時間に何だろうと思ったら、泣いているんですよ。なぜ泣いているのかと話を聞くと、「彼女に振られて立ち直れないんです。明日からしばらく休んでいいですか」って。それで私は「明日から休んでいいけど、何日後に出勤するの?」って聞くと、「3日だけ休んで、4日後に出勤します」と、こんなことを言うわけです。

 というのも、実は私たち佰食屋では、上司の許可なく、自分の好きな理由で好きなように休める、そして働く時間も自分で決められるようになっているんです。私たちはそもそも仕事をするために生まれてきたんじゃない、私たちは人生を豊かにするために仕事をするんだ。これを合言葉に自分の働き方を自分で決めていく。そんな組織が私たち佰食屋です。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

唐澤俊輔氏(以下唐澤):僕は2005年に新卒で日本マクドナルド株式会社に入り、12年ほどマーケティングをやっていました。そこでは社長室長も務めていたので、組織風土改革など、どちらかというと大企業の変革をやらせてもらった後、メルカリで人事全般の責任者、それからSHOWROOMというスタートアップでCOOとして経営に関わりました。今はそういった経験を踏まえて組織づくりなどを事業としたAlmohaという会社を立ち上げ、人事システムの開発などもやっています。

 もうひとつ、7月からデジタル庁の立ち上げ・組織づくりにも関わっています。僕のキャリアだと「それってメルカリだからできるんですよね」とか「外資だからできるんですよね」って言われがちで、それだと悔しいので、一番難易度の高そうな官公庁の変革をやってやろうというわけですね。日本組織の大元となる官公庁から変えていきたいと。

 Almohaって聞き慣れないと思うんですけど、“a little more happy”というのをミッションに掲げていて、その頭文字をとっているだけの社名なんです。「世界とるぞ!」とかっていう話ではなくて、身近な人や働く仲間一人ひとりが、少しでも楽しく暮らして生きていけるような組織づくりをしてみたいという思いでやらせてもらっています。

塩瀬隆之氏(以下塩瀬):では、僕も自己紹介します。改めまして、京都大学総合博物館というところで准教授をしています。昨年、『問いのデザイン』という本を出してから、「問うのが上手な人なんですよね」って言われて、いたるところから「とりあえず問うてください」とだけ依頼を受ける機会が増えまして(笑)。たぶん今日も「いい感じに問いかけろよ」っていう期待でここに座らせていただいているんだと思いますので、がんばりたいと思います。

そもそも組織文化はつくれるものなのか

塩瀬:今回、組織風土、組織文化の専門家から、実際に企業を経営されている方までいらっしゃるので、みなさんが気になっている心理的安全性に関して、僕が代わりに質問するところからスタートできたらなと思っています。まずは唐澤さん、心理的安全性をもった組織文化はつくれるものなのか、そもそも組織文化というもの自体、つくれるものなんでしょうか。

唐澤:組織文化って目に見えない空気みたいなもので、どうやったらつくれるのか、何がいい組織文化で何が悪い組織文化なのかということを定義するのはすごく難しいです。空気のような存在なので、結果としてできたもの、日々の行動や言動の結果積み上がったものが組織文化という意味では、結果論でしかないという側面があると思っています。

 ただ、放っておくと悪さをする可能性もあって、上司からのプレッシャーが強くて数値を改ざんしてしまう、といったリスクも当然出てきます。だから、やはりしっかり設計してつくるべきだし、つくれるものだと思っています。

 しっかり言語化、可視化をしながら、そこに立ち返る。よくあるミッション・ビジョン・バリューのように、組織のコアに立ち返りながらつくっていけば、目指す組織の形はある程度はつくれるのかなと思っていますね。

塩瀬:今、「言語化」「可視化」というキーワードをいただきました。少しずつキーワードを増やしながら、みなさんで回していきたいなと思います。次は中村さんにお伺いしたいのですが、中村さんは『売上を、減らそう。』というすごく刺激的なタイトルの著書を出されていますが、そうすると社員的にはリラックスして仕事できそうだなという気がするんですけど、経営者的にはドキドキするんじゃないかなと思っていて。この社員と経営者の心理的安全性、ドキドキ具合って一致するんでしょうか。

中村:私は心理的安全性、あるいは従業員の働きやすさを形づくるものは、すべて上司の振る舞いだと思っています。働きやすくするためにチームをつくって、部下に考えろと投げるという話を聞きますが、上司が変わらなければ組織は変わりません。

 上司が「失敗したときは俺に任せろ」って言ってくれたら、みんな安心して働けるし、安心して毎日楽しく過ごせます。だからこそ、経営者としての私の仕事は、私個人の感情とか数値目標とかっていうのはいったん差し置いて、従業員のみんなが働きやすくなるような環境整備だと思っています。

 みんなが相談しやすい空気感を出す、質問が来たら秒でレスポンスする。そういう空気感を上司からつくることによって、みんながその背中を見て真似していくと、すごく柔らかい雰囲気になる。これが組織文化のつくり方です。だから、いつだってスタートは上司だということです。

塩瀬:次に石井さんに伺いたいのですが、「俺に任せろ」って言ってくれない人に、どうやったらそういう心理的安全性のあるチームをつくってもらえるんでしょうか。

石井:先ほどの中村さんのお話を受けてお話しすると、僕は経営者に話すときには「経営者から変わりましょう」、上司と話すときには「上司から変わりましょう」、メンバーと話すときは「みなさんから変わりましょう」と話をします。もちろん上司、社長、役員、リーダーの方々のほうが影響力は大きいので、彼らから変わることは大事なことなんですけれども、とはいえ「上司の責任でしょ」「うちのチーム、なんとかしてよ」って言っていてもなかなかいいチームにはなりませんよね。心理的安全性には、全員協力が必要なんです。

 経営者ではなく、管理職から変わることで組織に影響を与えた実例もあります。ある会社の部長さんが、自分は心理的安全性が大事だと思っているけど、役員レベルの人たちはそれを必要ないと思っているというケースがありました。その方は、心理的安全性のあるチームをつくって成果を出して、全社で表彰されたんです。

 心理的に安全なチームをつくると、「ウチの組織」でも離職率が減るし、いろんなアイデアが出てくるし、いい組織になるんだ、というのを実際に見せると、経営層の人たちも「成果が出るんだったら、ちょっと話を聞いてみようかな」という気持ちになりやすい。なので、「経営者や上司がわかってくれない。だからできない」ではなく、1回自分の身の回りでいいチームづくりを「やって示してみる」のがオススメです。

 心理的安全性ってチームごとの特徴が出るものなので、あえて組織からサブチームを分割するのもひとつの手です。部内に10人いるとして、まずは3人だけでも相談し合えるようなチームになる。それが3人、5人、気がついたら上司も含めて部全体に広がっていって、心理的安全性が高くて話しやすい「いい環境」ができていく。そんなふうに、まずは身の回りの小さなチーム単位から心理的安全性をつくっていくのは、どのポジションであってもやってみる価値があると思います。

塩瀬:ありがとうございます。今チャットの質問の中にも「上司もすごく孤独なんです」「上司の心理的安全性も保たれないと」というコメントがありましたね。

石井上司の心理的安全性のためには、上司のふるまいや、出した成果に対して部下からポジティブなフィードバックを伝えるといいと思います。たとえば、会議の中で上司がいい話の振り方をしてくれたときには、お礼を言いに行きましょう。そうすると上司は「このマネジメントって部下からお礼を言われるぐらい正解なんだ」と学習できるわけですね。上司もあれこれ模索している中で、とりあえず自分が上から受けた厳しいマネジメントをやってしまっていることがあります。なので、「これはいいマネジメントだな」と思ったら上司にそれを伝えに行く。「こういう投げ方をしていただいて、話しやすくて助かりました」とひと言伝えるだけでだいぶ違うと思います。