現代人のスマホの平均使用時間は、約4時間にも及ぶという。ムダな時間を減らしたいと思っているのに、少しでも暇ができるとすぐにスマホに手を伸ばし、SNSやメールをチェックしたくなってしまう……。「スマホ依存」をやめるにはどうしたらいいのだろう。そんな悩みを持つ人にぜひ読んでもらいたいのが、Googleで最速仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、世界の企業の働き方に革命を起こしてきた著者による『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』だ。本書はたちまちのうちに話題となり、世界的なベストセラーになっている。著者のジェイク・ナップはGoogleで、ジョン・ゼラツキーはYouTubeで、長年、人の目を「1分、1秒」でも多く引きつける仕組みを研究し続けてきた「依存のプロ」だ。そんな人間心理のメカニズムを知り尽くした2人だからこそ、本書では、きわめて再現性の高い時間術が提案されている。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、「スマホ時間」が劇的に減る驚きの方法を紹介する。(構成:川代紗生 初出:2023年1月10日)

時間術大全Photo: Adobe Stock

忙しいのに成果はゼロ「多忙中毒」の正体

 iPhoneの「スクリーンタイム」という機能をご存じだろうか。

 iPhoneを1日でどれくらい開いたか、どのアプリをどれくらい開いていたか……使用時間が一目瞭然になる機能だ。

 筆者がスクリーンタイムを使う前は、1日の使用時間はせいぜい1時間、長くても2時間程度だろうと思っていた。

 ところが、実際に蓋を開けてみると、1日あたり平均5時間もスマホを触っていたのである。仕事や外出の予定がなく、ずっと家で過ごしていた休日には、7~8時間もスマホを触り続けていたこともあった。

 にわかには、その数字を信じられなかった。なぜなら、自分自身には、「スマホをたくさん触っている」「スマホに依存している」という意識はまるでなかったからだ。

 実は、『時間術大全』によれば、この「知らない間に消えている時間」こそが、「忙しくて疲弊する割にはやりたいことが何もできていない」という「多忙中毒」の大きな原因だという。

Google元社員が解説「ユーザーを依存させる心理メカニズム」

 共著者のジェイク・ナップとジョン・ゼラツキーは本書の中で、こう語っている。

アップルによれば、平均的なiPhoneユーザーは1日に80回もロックを解除する。消費者リサーチ会社Dscoutの2016年の調査によれば、モバイルユーザーが1日にスマホを触る平均回数は2617回だという。「注意散漫」が新しいデフォルトになっているのだ。(P.106)

 この本の、何よりも面白い点は、「ユーザーを依存させるプロ」として働いてきた彼らが、「スマホに依存しない仕組み」を逆算して考案しているところだ。

 ジェイクは2007年にGoogleに入社し、Gmailのチームに配属された。どうすればユーザーがGmailを頻繁に使いたくなるか、ユーザーの「粘着性」を高める方法を考え、改善に改善を重ねていたという。

 一方ジョンも、YouTubeのデザイナーとして、ユーザーの「試聴時間」を増やす方法や、一つの動画を観たあと、どうすれば同じチャンネルの別の動画をクリックしたくなるか、そのメカニズムを考え続けていた。

 そんな、世界トップのテクノロジー開発を行なっていた彼らは、こう断言する。

 さまざまなコンテンツの誘惑を振り払い、やりたいことに集中するのは、「意志力」だけでは絶対に不可能だ、と。

情けないやつらだと思わないでほしい。世の中は気を散らすものだらけなのだ。(中略)こんな世界では、意志力だけでは集中を保てない。僕らがこう言うのは、あなたが信用できないからでも、僕らの意志薄弱を正当化するためでもない。僕らはあなたが立ち向かっているものの実態を知り尽くしているから言っているのだ。(P.106)

「コンテンツ競争」がスマホ依存を加速させる

 世の中には、刺激的なアプリが無限に溢れている。ユーザーの「注意」をめぐる競争は激化する一方だ。可処分時間の奪い合いで、テクノロジーはどんどん進化している。

 本書によれば、この「競争」も、スマホの依存性を高める大きな要因の一つだという。

 たとえば、Twitterに飽きたら、2回ほどタップするだけで、今度はInstagramにアクセスすることができる。

 それにも飽きたら、次はニュースアプリを、次はYouTubeを、次はGmailをチェックして……と、魅力的なアプリが大量に溢れているからこそ、スマホの画面上を延々とめぐるだけで、簡単に時間をつぶせてしまうのだ。

SNSは「見せかけの達成感」を得られるように設計されている

 しかし、「見せかけの達成感」に騙されてはいけない、と彼らは語る。

ツイートを共有する、フェイスブックを更新する、インスタグラムに写真を載せるといった行動は時間クレーター(注:ちょっとした注意散漫が1日に大きな穴をつくること)の元凶だが、それらが危険な理由がもう1つある。「見せかけの達成感」を得られるのだ。ネット上のやりとりにコメントすると、何かをやり遂げたような気になり、「仕事をしたぞ!」と脳が知らせてくる。(中略)メールをチェックすると、何も新しいことをしていないのに、何かを達成したような気分になる。「よし」と脳は言う。「状況を把握できたぞ!」(P.155)

 このように、スマホの中には、「見せかけの達成感」を覚えさせる仕組みが凝縮されている。

 私たちは目先の達成感を求めてアプリの海を彷徨い、時間を奪われ、何も成し遂げていないのに体力とストレスだけは減り、そして、1日の最後になってようやく、「あれ、今日何してたんだっけ?」と我に返る。

 一流のエンジニアたちが考え抜いた技術の結晶に、「意志力」が勝てるわけがないのだ。

「気が散らないiPhone」でスマホ依存から脱する

 ならば、この「忙しいという感覚はあるのに、実は何も達成できていない」というむなしさに、どう立ち向かえばいいのか。

 それには、彼らが考案した「気が散らないiPhone」を試すのが有効だ。

「気が散らないiPhone」は、以下の5つのステップで簡単につくることができる。

1. 「ソーシャル系アプリ」を削除する
2. ゲーム、ニュースアプリ、YouTubeのような動画ストリーミングアプリなど、おもしろいコンテンツを供給してくれるアプリをすべて削除する
3. 「メールアカウント」を削除する
4. 「ウェブブラウザ」を無効にする
5. 「それ以外のすべて」を残す(カレンダー、マップ、天気予報など、ツールアプリと、使いたくてうずうずしないアプリは残す)
(P.124-126)

 これを基本ルールとし、ジョンは、「SNSなどを使い終えたら毎回ログアウトする」「入力しにくくて絶対に覚えられない複雑なパスワードにする」など、アプリへのアクセスまでにいくつもの障害物を設けている。

 ジェイクはホーム画面も空にし、「1画面に1列しかアプリを置かない」ようにする徹底ぶりだ。

1画面に1列しかアプリを置かないとこんなにスッキリする!『時間術大全』P.132より1画面に1列しかアプリを置かないとこんなにスッキリする!『時間術大全』P.132より

 いずれにせよ、大事なのは、無意識にiPhoneを触りそうになったとき、「我に返る時間」をできるだけ伸ばすことだ。

 最短ルートでアプリにアクセスできてしまうと、いつもの習慣でそのまま気がつけば数時間……なんてことになりかねない。

「この瞬間を、本当にスマホを触るために使うべきなのか?」とブレーキをかける仕組みづくりが必要なのだ。

 開発者の視点で、ロジカルに解説された『時間術大全』。どんな時間術を試してもスマホ依存が治らなかった、という人に、ぜひ一度トライしてもらいたい。