オンラインコミュニケーションは脳にどのような影響を与えるのかをめぐって「脳トレ」や認知症の研究で知られる川島隆太教授と人気連載「組織の病気」の秋山進氏が対談する後編。前編では、脳の同期をテーマにリズムを使う効用やオンライン会議は脳が参加しないという事実が明らかになったが、後編では、スマートフォンによる言語コミュニケーションの阻害や、ICT漬けで人類はついに滅びへとかじを切ってしまったという教授の危惧、ICT教育構想のずさんさにまで話が及んだ。(取材・構成/ライター 奥田由意)
スマートフォン依存で
集中力が続かない
秋山 前回はオンラインでは脳は共感しないのはなぜか、脳の同期のしくみについて伺いました。ご著書ではスマートフォン依存の問題も指摘されています。集中力が長く続かない人が激増しているせいか、スキマ時間を利用する「10分間トレーニング」のような短い時間の人気も上がっています。先生が「スイッチング問題」と名付けられたこの傾向は今後、どんなふうに社会に影響を及ぼすと思われますか。
川島 何かに集中しようとしても、スマホをチェックしたりする、スマホの着信が気になり、割り込みが入って注意がそれることが重なり、それがデフォルトになって、集中することが苦手になっています。マイクロソフトは集中力は10秒しか持たないからインターネット広告は10秒以内だと公言しています。この集中できない状態がデフォルトだとどうなるか。思考をめぐらすチャンスがなくなる、読書ができない、考えることもできなくなるんです。情報化社会の中で、考えて処理することが苦手になるので、結局マジョリティーの声を盲目的に信じてしまう。まさに今の社会がそうです。
1959年生まれ。千葉県千葉市出身。東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学研究科修了、スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学未来科学技術共同研究センター教授などを経て2006年より東北大学加齢医学研究所教授。2014年より現職。2017年より東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長。脳のどの部分にどのような機能があるのかを調べる「ブレインイメージング研究」を手がける。ゲームソフト「脳トレ」の監修でも知られる。著書に『スマホが学力を破壊する』『さらば脳ブーム』など。近著に『オンライン脳』(アスコム)がある。
秋山 リアクションするだけになる。
川島 SNSのメッセージは、言葉すらなく、絵文字だけ数秒でやりとりが進む。それが私は恐ろしいのです。今や高校生の95%がスマホを保有し、8~9割が数時間使いっぱなしです。スイッチングし続けた挙げ句、思考力を奪われた集団はコントロールしやすく、為政者に便利な国民になる。経済効率もいい。たとえばコロナが怖いからマスクをしましょう、外は換気できるのに、みんな外でもマスクをしているというのは考えることを放棄した証拠ではないでしょうか。GAFAはこうして消費者の考える力を奪っている。私たちは嬉々として彼らの術中に陥って気づかない。
秋山 先生は大学生などと接する中で、スマホ世代はこれまでの世代と違うと感じられますか。
川島 違いますね。フリック入力しかできず、キーボードを使えないので、パソコンでレポートを書けない。タブレットでは長いレポートは書けないので、コピペに頼り、盗用論文が増えるリスクがあると思います。
秋山 スマホはアプリで動かすもので、大枠はアプリのプロバイダーの思考枠組みの上で活動をすることになる。与えられたものの上に乗って、言語コミュニケーションをせず、考えない。
川島 実はアンケートで、コロナでリモートになったことで人と関わらなくて良くなり、心地よいと答えた学生がいて驚きました。
秋山 ホモサピエンスの進化の面では、人は社会的動物であり、集団でなければ生きていけないといわれてきましたが、ついに新人類が出現したのでしょうか。IT分野のオピニオンリーダーなどは、デジタル・ネーティブであることの必要性や優位性を盛んに言い立てますね。