アイデアが溢れる時代のイノベーションに求められる「センスメイキング」の力とは

解決すべき課題が決まっているイノベーションに必要なのは手段です。いっぽう、ストックホルム経済大学教授のロベルト・ベルガンティ氏が提唱する「意味のイノベーション」は何を課題とするか、から始まるものであり、いわば行き先を見つける旅です。そこで求められるのはアイデアやテクノロジーではなく、「なぜそれに取り組むのか」という意味を見いだす力です。意味のイノベーションのエバジェリストである安西洋之氏が、アイデアが溢れる時代におけるセンスメイキングの可能性について語ります。

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イノベーションとリーダーシップの関係

 著書『突破するデザイン』(日経BP社)の中でロベルト・ベルガンティは意味のイノベーションは、アイデアがあふれ過ぎた今の世の中で必要な指針を示すものだと書きます。デザイン理論研究者のクラウス・クリッペンドルフによる「デザインとはものごとに意味を与えること」との定義を踏まえています。文字通り、意味をどう変えるか、がテーマです。

 ベルガンティによればイノベーションは2種類しかない。一つ目は目的地へたどり着く方法の改善。二つ目が目的地そのものの変更。後者が、意味のイノベーションに当たります。誰かが設置した路線をなぞるのではなく、自らの動機に基づいて行き先を設定していくことになります。そこで意味形成(センスメイキング)が行われる。すなわち、行き先を定めた人間にとっては「私のプロジェクト」であり、オーナーシップを持つことになります。ですから、この人はおのずとリーダーシップを発揮する存在に他なりません。

 組織の上位にいるからリーダーシップがあるのではなく、ある事柄をダイナミックに動かす存在であるとき、「たまたま、その人がリーダーの役割を果たす」のです。さらにはっきりと言えば、ある事柄に意味付けをする存在であるとき、「その人はリーダーシップを担っている」わけです。

 この話をもう少し広い構図で眺めてみましょう。ミラノ工科大学デザイン学部名誉教授であるエツィオ・マンズィーニが『デザインせよ、あらゆる人がデザインする時だ(Design, When Everybody Designs)』(MITプレス 2015年 日本未翻訳)の中で使っている次ページのチャートをご覧ください。デザインが専門家だけでなく、一般の人にとっても「使える」分野であることを示したチャートです。