イタリア・ミラノ発のコンセプト「意味のイノベーション」はなぜ生まれたのか

人々の課題をこれまでにないテクノロジーによって解決すること――。定義はなくても、多くの人はイノベーションにこうしたイメージを持っていることでしょう。しかし、課題が顕在化し、解決のためのテクノロジーが溢れる時代において、そうしたアプローチで革新的なビジネスは生み出せるでしょうか。

テクノロジーによる「How」ではなく、デザインの力による「Why」から起こすイノベーションに注目が集まっています。ストックホルム経済大学教授のロベルト・ベルガンティによって生みだされたコンセプトを、エバンジェリストの安西洋之氏が解説する連載が始まります。

【お知らせ】ロベルト・ベルガンティ教授による『「意味」のイノベーション』の特別講座(有料)がオンラインで視聴できます。詳しくはこちらから

コンピューターの普及とともに拡張したデザインの意味

「意味のイノベーション」という表現があります。ストックホルム経済大学でイノベーションやリーダーシップを、ハーバードビジネススクールではデザインを教えるロベルト・ベルガンティが、著書『突破するデザイン』(日経BP社)で使っている言葉です。私は同書の日本語版の監訳・解説をした2017年以降、意味のイノベーションのエバンジェリスト的な活動をしてきました。本連載ではその活動を通して蓄積された、このコンセプトを巡るさまざまな側面や、推進する上での多様な障壁と突破口について語っていきたいと思います。第1回では、ビジネスにおけるデザインの取り扱われ方の変遷と意味のイノベーションの関係について述べていきます。

 ビジネスの現場でデザインがイノベーションと結び付つけられて語られるようになったのは、いつからでしょうか。私は1990年からイタリアのデザイン現場で仕事をしてきましたが、デザインを語る人のバックグランドが変わり始めた(正確には、広がってきた)のは今世紀になってからだと感じています。

 20世紀前半、黒いT型フォードに対してカラフルな車を出して大幅に利益を伸ばしたGM。98年、半透明のPCを出してよみがえったアップル。いろいろと事例はありますが、これらは色や形状が主体となった製品開発としてのデザインが販売増に貢献したというような文脈で語られます。自動車メーカーにとって車のエクステリアデザインは重要な経営事項で、たとえ企業上層部がプロトタイプを見て最終判断を下すとしても、あくまで「製品開発」というレイヤーでした。

 20世紀後半以降、コンピューターが使われ始め、コンピューターというハードウエアだけではなく画面と使う人の関係で生じるユーザーインターフェースに焦点が置かれるようになります。しかし、基本的には「デザインは製品開発の人たちの話だよね」と思われていたのです。