地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。
「コロニー」は超生物
顕花植物(花をつけ、種子をつくる植物)の登場が進化を後押ししたにせよ、多くのアリやハチ、スズメバチは、植物との関わりとは全く別に、よりまとまった、新しい状態へと進化してきた。
このような昆虫の多くは、巨大なコロニーを形成し、そのなかで個体は、警備や採餌などのきまった仕事に特化している。
女王とコロニー
特に生殖は、女王という一つの個体に委ねられている。多細胞生物の生殖が、決まった細胞の役割であるのと同じだ。
このようなコロニーは、いわば超生物なのであり、単体の動物の特徴と見まがう行動まで取ることがある。
たとえば、赤収穫アリのコロニーには、干ばつ時に、餌を探し回るアリたちをあまり外に送らないものがある。
この行動抑制により、その後、ほかのコロニーと比べて、娘コロニーをたくさんつくることが可能になる。
アリは、人間と同様、体内に生息する細菌や周囲の動物と密接な関係を築く。アリは菌類を積極的に栽培している。アブラムシの群れを飼いならし、その群れが分泌する蜜を採取している。
「社会性」を持つことのメリット
社会的組織は、成功とかかわる特性だ。ホモ・サピエンスは、社会的組織をつくるからこそ成功したのかもしれない。
社会性昆虫のように、ホモ・サピエンスは、個々人がきまった仕事に特化する傾向がある。社会性組織には、個人がばらばらに行動するよりも、より多くの資源をたやすく獲得できる可能性がある。
現代社会で、生きるために必要なものだけにかぎっても、一人で自給自足しろといわれたら、どれだけの人が快適な生活を送れるだろうか。社会性昆虫も同じだ。
社会的組織のご利益は、彼らが進化する以前からあったし、人類が絶滅した後もずっと同じだろう。
実際、小さな個体サイズと大きな組織のメリットは、時間とともに重要性を増してゆくだろう。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)