年始に立てた目標をいつも達成できず、自分がこの1年、何をがんばってきたのかすら思い出せない……。達成感を味わえる「目標」の立て方とは、いったい何だろうか。そこで参考になるのが、Googleで最速仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、世界の企業の働き方に革命を起こしてきた著者による『時間術大全――人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』だ。本書はたちまちのうちに話題となり、世界的なベストセラーになっている。著者のジェイク・ナップはGoogleで、ジョン・ゼラツキーはYouTubeで、長年、人の目を「1分、1秒」でも多く引きつける仕組みを研究し続けてきた「依存のプロ」だ。そんな人間心理のメカニズムを知り尽くした2人だからこそ、本書では、きわめて再現性の高い時間術が提案されている。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、「1日の最初にすべきこと」について紹介する。(構成:川代紗生)

時間術大全Photo: Adobe Stock

ここ2ヶ月の成果を何も思い出せない…
「時間のもや」の正体とは?

 あなたは、ここ2ヶ月で成し遂げたことを思い出せるだろうか。

 YouTubeでデザイナーをしていたジョン・ゼラツキーは、あまりに忙しい毎日に疲弊し、ここ数ヶ月、何をしていたのかまったく思い出せなかったという。

 とはいえ、ずっと憧れていた仕事に就き、プライベートも充実し、何もかもがうまくいっているはずだった。

 にもかかわらず、彼の記憶の中には、「もや」のようなものがかかっていた。あまりにも忙しすぎて、忘れたくない大切な思い出も、失われてしまっていたのだ。

 そこで彼は、毎日の仕事で運用していた「時間管理術」を、プライベートにまで応用し、時間を整理することにした。

 やることリストをつくり、目標設定を明確にし、細かくスケジューリングして、無駄を「ゼロ」にするようつとめた。

 しかし、うまく機能しなかった。細かいタスクを達成することに気を取られたせいで、優先順位を見失い、本当にやりたいことに時間を割けなくなったという。

 どんな目標設定をすればいいのか? どうやってタスク管理をすればいいのか?

 日々の雑務をなくすことはできない。「やらなければいけないこと」はしっかりとこなしつつ、「やりたいこと」にも時間を割くためには、どうしたらいいのか?

 さまざまな実験を繰り返した結果、ついに彼が見つけたのは、そもそも「目標の立て方」が自分に合っていなかった、という事実だった。

「ちょうどいい目標」とは、タスクと目標の「中間」

 世の中にはさまざまな目標達成術があるが、大きく、次の2種類に分けられる。

 1. 長期の目標達成術
 1つは、1年後、3年後、5年後などに達成していたい夢、やりたいことリストの立て方などだ。

 2. タスク管理術
 もう一つは、主にビジネスで活用する「生産性を上げること」を目的にした管理ノウハウだ。

 前者、後者、どちらに関しても、数々の自己啓発書やビジネス書が出版されている。「時間オタク」のジョン自身も、両者の理論を調べ尽くし、どれが効果があるか、実験してみたという。

 しかし、どちらもうまくいかなかった。

 長期目標は、あまりにも遠い先の出来事に感じられて、モチベーションが上がらなかった。

 一方、タスク管理では、日々のやることリストが増えるだけで、充実度は上がらない。毎日が余計に忙しくなるだけだった。

 目先の雑事と遠すぎる目標との板挟み。それを解決してくれるのは、「タスクと目標の『中間くらいのこと』」だった。

1日の初めに「ハイライト」を決めよ

 本書では、「ちょうどいい目標」を「ハイライト」と名付け、毎日、1日の初めに、「今日のハイライトは何にしよう?」と考えることを推奨している。

「中間目標」と「タスク」のあいだの中間的な活動に集中することが、ペースを落とし、日々の生活を充実させ、時間をつくる秘訣だと、僕らは考える。(P.50)

 従来の目標管理術と「ハイライト戦略」が大きく異なる点は、「ハイライトは直感で決めていい」ということだ。

 たとえば、ハイライトを決めるときには、こんな問いかけが有効だ。

・今日のスポットライトをどこに当てたいか?
・1日の終わりに「今日のハイライトはなんだった?」と聞かれたら、自分はどう答えたいか? どう答えられたら嬉しいか?
・その日を振り返るとき、しみじみと噛みしめたいのはどんな活動? どんな成果? どんな瞬間?

 このように、毎日活動をはじめる朝、または前日の夜に、その日のハイライトを決めること。

 これが、日々の暮らしを充実させる「ちょうどいい目標」だったのだ。

「他人に人生を動かされている」というモヤモヤを払拭せよ

 ハイライトのメリットは、「時間の使い方を自分で主体的に決められるようになる」ことだった。

 たとえば、「やることリスト」を軸に1日を過ごしていると、どうしても「他人に決められた人生を送っている感」が拭えない。

「まとめておいて」と言われた資料づくりも、上司のため。週末に出かけるレジャー施設の予約も、家族や友人のため。

 確定申告に必要な領収証の整理や、請求書の確認も、結局は他人に言われた締め切りに沿ってやっている。

 ハイライトは、この「他人に人生を動かされている」というモヤモヤ感を払拭してくれる。「今日1日、私はこの時間にスポットライトを当てる」と決めることで、日々の満足度を上げられるのだ。

ハイライトの「3つの選び方」

 具体的には、どうやってハイライトを決めればいいのか。本書では、「3つの基準」が紹介されている。

基準1つめ:緊急性(締め切りが決まっている仕事など、今日やらなくてはならない、最も急を要すること)
基準2つめ:
満足感(執筆中の小説の次の章を書くなど、急ぎではないが、1日の終わりに最大の満足感が得られること)
基準3つめ:
喜び(友人宅のパーティーに行くなど、今日という日を振り返ったとき、いちばん喜びが感じられること)

 この「ハイライト戦略」が素晴らしいのは、「仕事とプライベートを分けて考えなくていい」ということだ。

 たいていの「時間管理術」は、仕事にフォーカスしたもの、プライベートにフォーカスしたものと偏っていることが多い。筆者もさまざまな時間管理術を試してきたが、すべての目標を網羅できるものはなかった。

 しかし、人生とは、仕事さえ充実していればいい、プライベートさえ充実していればいい、というものではない。がむしゃらに働きたいときと、趣味に没頭したいとき、いつも同じテンションではいられないだろう。

 その点、「ハイライト戦略」は、その日の気分で「ハイライト」を自由に決めることができる、フレキシブルな方法だ。

「いつか」やりたいと思っていることがたくさんあるのに、どれも手をつけられていない……。そんなとき、一度試してみてはいかがだろうか。