日産Photo:PIXTA

失敗する組織内には、指導者たちの合理的な判断によって、「やましき沈黙」が生じる。そして、どこかに潜んでいた「黒い空気」が、いつのまにか組織全体を覆ってしまう――。不条理な「黒い空気」支配の回避と、「黒い空気」の清浄化についてさらに明らかにしていくために、ここでは「取引コスト理論」を応用して導出されるいくつかの方法について説明してみたい。しかし、この経済学による理論的解決策には限界があることもあわせて説明しておく必要があるだろう。
※本稿は、菊澤研宗『指導者(リーダー)の不条理』(PHP新書)より抜粋し再編集したものです。

日産とYKKの変革にみる「黒い空気」清浄化

 さて、「黒い空気」を清浄化する組織内の「取引コスト」の節約について、より具体的な事例をみてみよう。

 例えば、1998年に日産自動車は、2兆円の有利子負債を抱え、経営危機に陥った。おそらく、社内のいたるところで非効率で悪しき慣行が行われていたのであろう。当時、多くの社員も、そのことに気づいていたと思われる。

 しかし、日産が大変革を行うには、それに伴う人間関係上の取引コストがあまりにも大きく、それゆえあえて非効率的な現状に留まる方が合理的という不条理な「黒い空気」に社内は支配されていたのではないかと思われる。

 しかし、その後、日産は大胆な変革を行なって、V字回復した。それは、周知のように日産がルノーと提携し、偶然、カルロス・ゴーン氏が日産の社長に就任したからである。