シャープPhoto by Takahisa Suzuki

失敗する組織内には、指導者たちの合理的な判断によって、「やましき沈黙」が生じる。そして、どこかに潜んでいた「黒い空気」が、いつのまにか組織全体を覆ってしまう――。限定合理的で不完全な人間世界では、今の日本でも起きているのであり、何らかの対処を施さない限り、今後も起こりうる現象である。シャープとレナウンをめぐる「黒い空気」支配の事例を、取り上げてみたい。
※本稿は、菊澤研宗『指導者(リーダー)の不条理』(PHP新書)より抜粋し再編集したものです。

シャープの失敗と「黒い空気」

 100年近い歴史をもつシャープは、もともと様々な家電製品を製造・販売し、成功していた会社であった。ところが、液晶技術にもとづく商品開発で次々と大成功を収めたために、液晶技術を自社の強みとして位置づけ、それを企業にとっての固有資源として選択し、そこにシャープの資源の集中を行なった。いわゆる「選択と集中」戦略である。

 とくに、液晶技術の研究開発に多額の投資を行うとともに、2004年には三重県亀山市に巨大な液晶パネル工場を建設し、2006年にも第二工場を建設し、総額でおよそ4000億円を投資した。さらに、その後も、大阪府堺市に4300億円を投じて液晶の新工場を建設した。

 しかし、環境の変化は激しく、シャープの液晶の競争優位性は弱まっていった。そのため、シャープの液晶巨大工場は強みではなく、逆に弱みとなった。とくに、2008年のリーマンショック以後、シャープが力を入れていた60インチサイズの大型液晶テレビは売れなくなった。そして、それに代わって、当時、中型サイズで攻勢をかけていた韓国サムスン電子が液晶テレビに関して優位となった。

 また、シャープには液晶技術に関しても過信があった。しかし、結局、その技術も韓国や台湾のメーカーにすぐに追いつかれてしまったのである。