失敗する組織内には、指導者たちの合理的な判断によって、「やましき沈黙」が生じる。そして、どこかに潜んでいた「黒い空気」が、いつのまにか組織全体を覆ってしまう――。限定合理的で不完全な人間世界では、今の日本でも起きているのであり、何らかの対処を施さない限り、今後も起こりうる現象である。神戸製鋼所をめぐる「黒い空気」支配の事例を取り上げてみたい。
※本稿は、菊澤研宗『指導者(リーダー)の不条理』(PHP新書)より抜粋し再編集したものです。
神戸製鋼所の失敗と「黒い空気」
2017年10月8日、鉄鋼大手の神戸製鋼所のアルミ・銅製品などで検査データが改ざんされていたことが明らかになった。神戸製鋼所の金属は、航空機、自動車、鉄道など、幅広く使用されており、そのため神戸製鋼所の製品を使った航空機・車などの安全性が問題視され、社会問題となった。
神戸製鋼所は、当時、中国企業の急速な成長・発展に危機感を抱いていた。それゆえ、上層部から、中国企業に対抗するため、より高品質、低価格、納期の短縮など、かなり無理な要請がなされていたように思える。こうした状況で、問題が起こった。
さて、周知のように、日本では一般に企業間関係は相互に密接な関係にある。その関係は、信頼と伝統にもとづくものであり、一夜にして生まれたものではない。こうした密な企業間関係のもとで、取引相手から物理的に達成困難な要求や注文が来た場合、日本ではどのようにして対処するのだろうか。