養老孟司氏、隈研吾氏、斎藤幸平氏らが絶賛している話題書マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』──。樹木たちの「会話」を可能にする「地中の菌類ネットワーク」を解明した同書のオリジナル版は、刊行直後から世界で大きな話題を呼び、早くも映画化が決定した。待望の日本語版が刊行されたことを記念し、同書の「おわりに」の一部を特別に公開する。

【森林学者が語る】「大気中の二酸化炭素が増えている」は本当か? 専門家らが恐れる「臨界点」とは?Photo: Adobe Stock

どうすれば私たちが抱える
「地球規模のストレス」を癒やせるだろう?

 私がマザーツリー・プロジェクトを始めたのは2015年、がんの治療を終えて仕事に復帰しようとしていたときのことだ。

 このプロジェクトは、私がこれまでしてきた実験のなかで最も大規模なもので、気候変動が起きているいまだからこそ、マザーツリーを保全し、森のなかのつながりを維持して、森の再生力を護ろうという基本理念のもとで始まった。

 マザーツリー・プロジェクトは、ブリティッシュコロンビア州の「七色の気候地帯」に位置する9箇所の実験林からなり、州南東の暑くて乾いた森から北部中央内陸地帯の寒くて湿度の高い森までを網羅している。

 私たちが検証しようとしているのは、森の構造と機能だ。ネットワークのような木々のつながりが、現実の環境のなかでどのように機能するのか、また、伐採の際に保全されるマザーツリーの数の違いや、複数種の植林によって、それがどう変わるか、ということである。

 どのように収穫と植林を組み合わせれば、地球が直面している大きなストレスからいちばんうまく立ち直れるのか、どうすれば森林資源に対する需要を満たしつつ木々のつながりを最も健康的に保てるのか──それらを推測する根拠が欲しいのだ。

複雑系の科学を用いて、
森との向き合い方をアップデートする

 私たちの目標は、複雑系の科学という新しい視点をさらに発展させることにある。競合関係だけでなく協力関係もあるということを受け入れれば──というより、森を形づくっている多種多様な相互作用のすべてを考慮することで、複雑系の科学は林業そのものを、これまでのような過剰に権威主義的で短絡的なものから、適応力に富んだ全体論的なものに変化させることができる。

 いまでは誰もが気候変動の影響に気づいており、その直接的な被害を受けていない人はいないに等しい。

 大気中の二酸化炭素濃度は、1850年の285PPM(空気中の分子100万個のうち285個が二酸化炭素であるという意味)から1958年には315PPMに激増し、これを書いているいまでは412PPMを超えている。このままのペースで進めば、ハナとナヴァ(編集部注:筆者スザンヌ・シマードの娘たち)が子どもを育てるころには、科学者が臨界点と見なす450PPMに到達する。

 それでも私は希望を持っている。転換はときとして、何も変わりようがないように思えるときに起きるものだ。(中略)

 私たちには進む道を変える力がある。私たちの絶望感の大きな原因は、私たちが互いのつながりを──そして自然が持つ驚異的な力についての理解を失ってしまったことにあり、私たちはとりわけ植物をないがしろにしている。

まずは「あなただけの木」を見つけよう

 彼らに周囲を知覚する力があることを理解すれば、木や草、そして森に対する私たちの共感と愛情は自ずと深まり、問題の革新的な解決方法が見つかるはずだ。重要なのは、自然そのものが持つ知性に耳を傾けることである

 それは私たち一人ひとりにかかっている。あなたが自分のものと呼べる植物とつながってほしい。都会に住んでいる人は植木鉢をバルコニーに置き、庭があるなら家庭菜園を始めたり、コミュニティ農園に参加してもいいだろう。

 そしていますぐあなたにできるシンプルな行動がある──木を1本、あなたの木を見つけるのだ。自分がその木のネットワークにつながり、それが周りの木ともつながっているところを想像してほしい。感覚を研ぎ澄まして。

(本原稿は、スザンヌ・シマード著『マザーツリー』からの抜粋です)