養老孟司氏、隈研吾氏、斎藤幸平氏らが絶賛している話題書マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』──。樹木たちの「会話」を可能にする「地中の菌類ネットワーク」を解明した同書のオリジナル版は、刊行直後から世界で大きな話題を呼び、早くも映画化が決定した。待望の日本語版が刊行されたことを記念し、本文の一部を特別に公開する。

【世界歴代興行収入No.1映画】の核心にもつながった科学者の「伝説のスピーチ」Photo: Adobe Stock

「森で交わされる木々の会話」
──世界1000万人が感動したTEDトーク

 グランドマザー・シーダーの幹に近づきながら私は「ヤッホー!」と叫んだ──サーモンベリーの葉でその声は遮られてしまったけれど。ここでハイイログマに遭遇すればあっというまにお陀仏だ。

 でも私の気持ちは穏やかだった。抗がん剤治療に比べれば、ここにいることは至福に感じられた。

 それに私はずっと落ち着いていた──少し前に、バンフでTEDトークの大舞台に登壇し、カメラや1000人の人の目が私の一挙手一投足を追ったときに比べれば。

 その日私は、舞台の袖から明るい照明のなかに歩いて出ながら、お気に入りの青いシャツの上からメアリーが黒いコートを着せてくれた幸運に感謝した。シャツのボタンが一つ取れているのを見つけたのだ。

 私は観客をキャベツだと思ってトークをした。終わって袖に引っ込みながら、やった、と私は思った──恥ずかしがり屋を克服し、真心を込めて話し、自分が学んだことを公表して、人々がそこから必要なものを得られるようにできた。その誇らしさで私は胸いっぱいだった。

マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』著者であるスザンヌ・シマード博士のTEDトーク「森で交わされる木々の会話(How trees talk to each other)」はYouTubeでも視聴することができる。

 動画を観たシカゴの女性は、「心の底では、木とはそういうものだとずっとわかっていました」というメッセージをくれた。

 ラジオ番組「ラジオラボ」のロバート・クルルウィッチからは、私のポッドキャストをつくりたいと連絡があった。『ナショナル・ジオグラフィック』誌は、特集を組み、映画をつくりたいと言った。

 何千通というEメールや手紙が届いた。子ども、母親、父親、アーティスト、弁護士、シャーマン、作曲家、学生。世界中の人々が、自分と木とのつながりを表現していた──体験談、詩、絵、映画、本、音楽、ダンス、交響楽、お祭り。

 バンクーバーのある都市計画家は、「菌根ネットワークのパターンを模した都市デザインをしたい」という手紙をくれた。

彼女の発想は映画『アバター』の原案にもなっている

 マザーツリーとそれを取り囲む木々がつながっているという概念は、映画『アバター』に登場する木の中心概念としてハリウッドにも進出した。

 この映画が人々の大きな共感を呼んだ様子を見て、私はあらためて感じたのだ──人々が母親、父親、子ども、家族(自分自身の家族もそれ以外の家族も含めて)とつながり、木や動物や、その他自然界のあらゆる生き物と一つにつながることが、どれほど自然で重要なことであるかを。

 私は自分のメッセージを人々に伝えた。

 すると、うねるような大きな反応が返ってきた。

 人々は森を愛し、助けになりたがっていた。

「われわれのやり方はうまくいっていない」と、ある森林監督官からメールが来た。その言葉は私の耳に快く響いた。私たちは、収穫後に森が回復するのを助けるためにどうやってマザーツリーを残すべきかを話し合った。そうした考え方を受け入れる森林監督官はまだ十分ではないが、少なくともその始まりの兆しはある。

(本原稿は、スザンヌ・シマード著『マザーツリー』からの抜粋です)