森林は「インターネット」であり、菌類がつくる「巨大な脳」だった──。樹木たちの「会話」を可能にする「地中の菌類ネットワーク」を解明した『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』がいよいよ日本でも発売される。
発売直後から世界で大きな話題を呼び、早くも映画化も決定しているという同書だが、日本国内でも養老孟司氏(解剖学者)、隈研吾氏(建築家)や斎藤幸平氏(哲学者)など、第一人者から推薦の声が多数集まっているという。本書の発刊を記念して、本文の一部を特別に公開する。
森の木々は周囲を知覚し、
仲間に水や栄養を分け与える
歳取った木には、どの苗木が自分の親族であるかがわかる。
歳取った木々は若い木々を慈しみ、私たちが子どもにそうするのと同じように食べ物や水を与える。
そのことだけでも、私たちが足を止め、息を呑み、森の社会性について、またそれが進化にとっていかに必要不可欠なことであるかについて真剣に考えるきっかけとしては十分だ。
菌類のネットワークは木を周囲に適合させるらしい。
カナダの森林生態学者が発見した
「育児する森」の神秘
そしてそれだけではない。
こうした古い木々は、子どもたちの母親なのだ。
母なる木。マザーツリー。
森で交わされるコミュニケーション、森の保護、森の知覚力の中心的存在であるこうしたマザーツリーは死ぬときに、その叡智を親族に、世代から世代へと引き継ぎ、役に立つことと害になること、誰が味方で誰が敵か、つねに変化する自然の環境にどうすれば適応し、そこで生き残れるのか、といった知識を伝えていく。
親なら誰もがすることだ。
美しい樹木や菌類の姿をとらえた魅力的な写真もカラー掲載されている。
森の叡智についての科学的エビデンスは、
人間社会に対するヒントをくれる
いったいどうすれば彼らは、まるで電話をかけるかのごとく迅速に、互いを認識し、警告を送ったり助け合ったりできるのだろう?
傷ついたり病気になったりしたときに、どうやって互いを助けるのだろう?
なぜ森は人間のように行動し、人間の社会のように機能するのだろう?
生涯を森の探偵として過ごしたあと、森というものに対する私の認識は完全にひっくり返ってしまった。
新しいことを学ぶたびに、私はますます森の一部になっていく。
科学的なエビデンスを無視することは不可能だ──森には叡智と感覚、そして癒やしの力がある。
これは、どうしたら私たちが森を救えるかについての本ではない。
これは、私たちが木々によって救われる可能性についての本である。
(本原稿は、スザンヌ・シマード著『マザーツリー』からの抜粋に編集を加えたものです)