いま話題の「ディープ・スキル」とは何か? ビジネスパーソンは、人と組織を動かすことができなければ、仕事を成し遂げることができません。そのためには、「上司は保身をはかる」「部署間対立は避けられない」「権力がなければ変革はできない」といった、身も蓋もない現実(人間心理・組織力学)に対する深い洞察に基づいた、「ヒューマン・スキル」=「ディープ・スキル」が不可欠。本連載では、4000人超のリーダーをサポートしてきたコンサルタントである石川明さんが、現場で学んできた「ディープ・スキル」を解説します。
今回のテーマは「コミュニケーション」。社内で味方を増やすためには、日頃から親切を心がけるのが大事。しかし、親切をしようとして、かえって嫌われてしまう人も多いのが現実。上手に味方を増やすコミュニケーション方法を具体的に紹介します。(本連載は『Deep Skill ディープ・スキル』(石川明・著)から抜粋・編集してお届けします)。
実は難しい「他者貢献」
日頃から地道に、周囲の人々との協力関係をつくっておく──。
これは、組織の中で大きな仕事を動かしていくために欠かせないことです。そのためには、周囲の人々の「不」(「不満」「不安」などの「不」)を把握して、その解消をサポートするスタンスが大切。まず、自分が「他者貢献」することによって、はじめて「協力的な人的ネットワーク」をつくっていくことが可能になるのです。
そして、時間をかけて、協力的な人的ネットワークを、組織内に幾重にも張り巡らせることができれば、あなたが進めたいと思うプロジェクトに力を貸してくれる人が現れ、何か困ったことがあれば助けてくれる人も現れるでしょう。この人的ネットワークを築くことは、人や組織を動かす原動力となる重要なディープ・スキルです(詳しくはこちらの記事を参照)。
ただし、ここで注意すべきポイントがあります。
協力関係を築くためには、まず「他者貢献」することが大切なのですが、それが往々にして「親切の押し売り」になってしまうことです。そのことに無頓着であれば、相手にとっては単なる「ありがた迷惑」。かえって、相手に敬遠される結果を招いてしまうのです。
そもそも、人間というものは「恩」を売られるのを嫌うものです。「お世話になったのだから、お返しをしなければならない」という思いが、「義務感」として相手の重荷に感じられることもあるからです。そして、それが「重荷」に感じられれば、いずれ相手はあなたを疎ましく思い始めるでしょう。
「アドバイスをしたがる人」が嫌われる理由
また、何らかの「不」を抱えて困っている人を「助ける」という行為は、一歩間違えれば、「上位にある者が、下位にある者に施す」といった色彩を帯びかねないことにも注意が必要です。
典型的なのが「アドバイス」です。私自身、若い頃は、これで何度も失敗をしたものです。
自分なりに「アイデアマンである」という自負があったため、周囲にアイデアが出ずに困っている人がいたら、”よかれ”と思って「こうしたほうがいいんじゃない?」などとアドバイスをしていたのですが、それでかえって、周囲の人に敬遠される結果を招いていたのです。
いま考えれば、それも当然のことです。相手はたしかに困っていますが、健全な自尊感情の持ち主であれば、自分の力で「解決策」を見つけて、困難を乗り越えたいと思っているはずです。
にもかかわらず、不用意にアドバイスをしてしまうと、あたかも「私は”解決策”を知っている」「”解決策”を知らないあなたに教えてあげる」などと、”上から目線”で見ていると受け止められるだけ。当時の私は、ビジネススクールで学んだ知見にも自信があったがために、なおさら相手の鼻についたのでしょう。それでは、アドバイスがどんなに的確なものであったとしても、「親切の押し売り」であるうえに、相手の自尊感情を傷つけることにしかなりません。
このように、「相手を助けよう」「相手の役に立とう」という行為によって、相手との関係性を損なうことすらありうることは、十分に認識しておく必要があります。「他者貢献」をするときには、慎重さが不可欠なのです。
上手に「他者貢献」をする
シンプルな鉄則
では、どうすれば上手に「他者貢献」をすることができるのでしょうか?
私は、「壁打ち」相手になることを意識すればいいと思っています。会話のなかで相手が「不」を漏らしたときに、「壁打ち」相手になることでコミュニケーションをさらに深めていくのです。
「壁打ち」とは、リクルートの企画職の中で頻繁に行われていたコミュニケーション手法のこと。「相談」のさらに手前、といっても単なる「雑談」とも違う。相手がぼんやりと考えていることや、悩んでいることを聞いて、「感想」「質問」「アイデア」などを打ち返すことによって、相手自身が「思考」を整理したり深めたりすることで、「答え」や「解決策」を見つけ出す手伝いをすることです。
最大のポイントは、あくまでも相手が「主」であること。
実際にボールを「壁打ち」するのをイメージしてください。ボールを打つ主体は相手であって、「壁」は飛んできたボールを跳ね返すだけの「受け身」の存在です。
それと同じで、「壁打ち」というコミュニケーションにおいては、「考える主体」も「答えを出す主体」も相手であり、あなたの果たすべき役割は、相手が「思考」を深め、「答え」や「解決策」を見つけ出す手伝いをするために、相手の言葉(ボール)を受け止め、問い返す「壁」に徹すること。「アドバイス」というボールを、こちらが主体となって投げるようなことをしてはならないのです。
相手が自ら「気づき」を得る、
コミュニケーションの技術
例えば、こんな感じで「壁打ち」をします。