「副作用が危険な効かない薬」は
誰が使うのか?

 個々の仕組み債の条件は多様だし時に複雑だが、本質は簡単だ。

 顧客側では、将来時点にある条件(ある会社の株式が現在の株価を下回らないなど)があり、これが満たされた場合に顧客は通常よりも有利な金利を受け取る。逆に、満たされなかった場合に株価下落の損失を負担するなどのリスクを負う。

 仕組み債を組成して提供する側では、顧客側の条件が満たされた場合に顧客に提供するメリットを用意しておかねばならない等のリスクがあるが、このリスクは十分ヘッジが可能だ。その上で通常は年率で債券額面の数パーセントに及ぶ実質的な手数料が確保できるように設計されている。このほぼ確実に得られる実質的な手数料を組成者と売り手金融機関とが山分けする仕組みだ。

 医薬品に例えるなら、薬が効く(=通常の金利よりも有利になる)場合はあるが、その場合は他の市販薬の方がよく効いて、副作用が発生する場合(条件が満たされなかったとき)は深刻な副作用が発生するような薬といえる。さらに、通常の市販薬よりも製薬メーカーの利益率が大幅に高いような高価な薬が仕組み債だ。

 副作用が起きた場合に耐えられるくらい身体が丈夫で(=財産状況に余裕があり)、薬について完全に理解している(=仕組み債の価格評価ができる)人間が客なら、この薬を売ることは百歩譲って「客の嗜好」なので認めていいかもしれない。しかし、普通の常識を持った客なら、仮に同じ薬効を欲していても、「効く場合にはよりよく効いて、副作用が起きてもより軽微な、より値段の安い薬」を求めるのが普通だろう。

 仕組み債に関しては、顧客が商品を十分理解するような適切な販売と両立する「真のニーズ」が存在しないのだ。

 金融庁の中島淳一長官は理科系の学部の出身らしいので、金融工学の初歩を十分理解しているだろう。どのような場合に、仕組み債に対する顧客の「真のニーズ」なるものが存在するのか答えてほしいものだ。