仕組み債販売を生かしているのは
違反者をあぶり出す「囮」なのか?

 顧客にとって「真のニーズ」が存在しない上に、顧客の大半ばかりか、おそらくは販売を担当する金融マンにも正確な理解が困難で、しかも時に大きな損失をもたらすリスクのある商品が仕組み債だ。この商品を個人向けに販売することを許しておくことは、どう考えても合理的ではない。

 それでも、仕組み債の販売が禁止されないのはなぜなのだろうか。金融庁には何か隠された意図があるのだろうか。

 金融検査の際の仕事を作るためなのか。あるいは、悪い奴を一網打尽にするために、あえて犯人を「泳がせて」いるのか。さすがにそのようなことはあるまい。

 一つの推測を述べてみる。金融庁は、その販売姿勢を通じて「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」を遵守しない金融機関およびその経営陣をあぶり出すための言わば囮として、高価な毒物のような、仕組み債の販売をあえて認め続けているのだろうか。

 仕組み債は、問い詰めるならその販売が不適切であったことを確実に証明できる、検査する側にとってリスクの小さな案件だ。個々の仕組み債について、経営者は理解していたか。営業現場に対して、どのような業務目標の提示と人事評価を行ってきたのか。仕組み債のような商品を販売するに当たって、適切な顧客をどう判別するように指示をしていたのか。こうした数多ある問題点をねちねちと問い詰めることは新米の検査官でも余裕を持ってできそうだ。

 仕組み債販売の問題は、これを問い詰める側に回るなら、金融庁にとって必勝不敗だ。しかし、金融庁自身は問われなくてもいいのか。