最近は声優のアイドル化が進み、「“推し”が出ているからアニメを見る」という人も少なくない。「小中学生のなりたい職業」の上位に声優が入るなど、若い世代からの人気も上昇中である。だが、声優の世界は決して甘くない。厳しい競争を勝ち抜いて高給取りになる人はほんの一握りだ。劇場版『ONE PIECE』やTVアニメ『プリキュア』シリーズを担当した経験を持ち、書籍『アニメができるまで』を上梓した大塚隆史監督に、声優業界の裏話を聞いた。(執筆/フリーライター 堀田孝之、取材協力/アニメ監督 大塚隆史)
アニメ人気を引き上げた
「声優」の知られざる世界
昨年は人気声優の「不倫スキャンダル」がメディアで報道され、世間から大きなバッシングが起きた。一部の声優の人気ぶりは、いまや実写の俳優やアイドルに勝るとも劣らない状況だ。
ひと昔前なら、たとえ声優が不祥事を起こしたとしても、世間を騒がすニュースになどならなかっただろう。昨今のアニメブームの一翼を担っているのは、声優の人気によるところが大きいのは疑う余地もない。
このような状況を、アニメの制作スタッフたちはどのように見ているのだろうか。劇場版『ONE PIECE』やTVアニメ『プリキュア』シリーズを手掛けた大塚隆史監督に聞いてみた。
すると大塚監督は、「アニメ監督である僕は、声優さんの仕事の実情を全面的に理解しているわけではありません。今回の話は、あくまで僕の個人的な見解として聞いていただければと思います」と前置きした上で、以下のように語ってくれた。
「今は『アニメといえば声優!』のような風潮もありますが、僕は声優も数百人いるアニメ制作者の中の1人だと考えています。声優さんの力だけで魅力的なキャラは生まれません。キャラクターデザイナーが『俳優の容姿』を作り、アニメーターが『俳優に演技』をさせ、声優さんが『声の演技』を担当して、初めて1人のキャラが生まれるのです」(大塚監督、以下同)
「しかし、やはり声優さんの力はとても大きい。まずは演技力です。うまい声優さんの演技は、キャラクターの存在感を一気に高め、作品の出来を引き上げてくれます。もう一つは、声優さんの人気です。作品の知名度が低い場合、人気のある声優さんが出演してくれると宣伝効果が高まるので、非常に頼りになるのです」
やはり制作者側も、声優人気を頼りにしている部分もあるようだ。
大塚監督によると、声優の多くは、オーディションによって役を勝ち取っているという。