塩野義ゾコーバ

国産初のコロナ経口薬がいよいよ実用化される。塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」(一般名:エンシトレルビルフマル酸)が11月22日に緊急承認された。同社にとっては過去最大の開発費を投じ、生み出した「虎の子」の薬。期待は大きいものの、プロモーションのまずさがあだとなり、開発過程で政治色が常につきまとってしまったことが大きな足かせとなりそうだ。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

過去最大950億円を投じるも
塩野義のもくろみに暗雲

 塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」(一般名:エンシトレルビルフマル酸)が、11月22日に緊急承認された。飲み薬はこれまで米ファイザーの「パキロビッド」(一般名:ニルマトレルビル/リトナビル)、米メルクの「ラゲブリオ」(一般名:モルヌピラビル)が承認されているが、この2剤は重症化リスクのある患者への処方に限られていた。

 一方、ゾコーバは重症化リスクの少ない患者が対象で、既存2剤で代替できないこと、そして昨今の世界情勢不安や円安に鑑み、国内生産ができる治療薬であることが加味され、緊急承認される運びとなった。

 緊急承認を受けて塩野義製薬は24日に会見を開き、コロナワクチンを承認申請したこともサプライズで発表した。手代木功社長が「他の物をすべて止めてでも、これを仕上げる」「950億円と、今まで考えたこともないような開発費」と振り返った通り、この2年間、社内の7~8割の研究者をコロナ関連に動員し、経営資源を集中。これには、社内から反対の声も上がっていたという。

 緊急承認は、感染症拡大などの緊急時に、安全性を確認した上で有効性を「推定」できれば、前倒しで薬事承認が可能とする新しい制度。期限である1年のうちに、有効性を証明するデータをそろえて、再度承認申請をしなければならない。緊急承認された薬は、いわば「仮免許」の状態となる。

 塩野義製薬にとってゾコーバはブロックバスターになりうる可能性を秘める金の卵だ。同社は、ゾコーバの承認込みで、23年3月期の売上高の約4分の1をコロナ関連で稼ぐと見込んでいる。国内では100万人分を国が買い上げることで合意しており、業績予想の達成に関して「韓国・中国ではそれなりのスピードで審査いただけるのでは」(手代木社長)とグローバル市場でのさらなる上積みへの期待もにじませる。

11月24日、ゾコーバの緊急承認を受け東京都内で会見を行った塩野義製薬(写真左が同社手代木功社長)11月24日、ゾコーバの緊急承認を受け東京都内で会見を行った塩野義製薬(写真左が同社手代木功社長)

 しかし、このもくろみには大きな暗雲が垂れ込めている。ゾコーバの緊急承認を審議した、22日の 薬事・食品衛生審議会薬事分科会と医薬品第二部会の合同会議(薬食審)では、最終的に賛成多数であったものの、ゾコーバの効果に関して複数の委員から「すごくウイルス量を減らしているとはいえない」「72時間以内に投与しないと意味がない」「世論に過度な期待を持たせないように」という注文が次々についたからだ。

 あたかも「効かない薬」と捉えられかねない言い方をされた上、この審議会自体、ゾコーバの効果に対する検討ではなく、冒頭から「なぜゾコーバだけ特別扱いするのか」という物言いから始まったのは極めて異様だった。