日本のドローン利用を
20年も遅らせた電波法

 一般的なドローンの規制には、国土交通省が管轄する航空法で定めるドローン飛行ルールと、警察庁が管轄する小型無人機等飛行禁止法というドローンの飛行に関する規制がある。

 本記事で取り上げる規制は、それとは別のもの。総務省の管轄する電波法である。電波法はドローンとそれを操縦するコントローラーを結ぶ電波に関する規制と、電波を使用する機器に対する電波法に基づく基準認証(技術基準適合証明、いわゆる技適)という総務省管轄の無線通信全般に関する法律だ。

 この適用範囲はドローンだけでなく無線機、携帯電話、スマートフォン、Wi-Fiといった通信機器全般に及んでいるが、これが日本をデジタル後進国にするがんとなっている。

 ドローンだけ見ても、世界でも日本だけの異常に厳しいドローン規制として、小型無人機等飛行禁止法と相まって大きな障壁として立ちはだかり、日本のドローンの発展や普及を20年近く遅らせている。

電波法によって
自衛隊のドローン導入コストが割高に

 電波法のドローン規制の内容を見ていこう。日本では世界でもまれなことにドローン操縦で無条件に使用できる電波の周波数は主に2.4GHz(ギガヘルツ)帯に限られている。世界でこんなにも制限をかけているところはない。

 無線技士免許の取得や操縦ライセンス取得などさまざまな条件をクリアすれば5.7GHz帯や5.8GHz帯といった伝送容量と速度にたけた、いわゆる5GHz帯の周波数を使用する産業用機体などの利用も可能ではあるが、それにはコストや手間がかかる。

 現在、自衛隊が所有している小型ドローンは災害用と位置付けてはいるが、一般向けに市販されている民生用の機体が主で、利用可能な電波は2.4GHz帯の周波数に限られている。

 欧米や中国など多くの国では主に5.8GHzを含む5GHz帯を使用する機種が標準的で、このパワフルな通信環境を生かしたドローン利用が盛んとなっている。だが、たとえ海外メーカー製で外観が同じ機種でも、日本で販売する際には電波法によって使用する電波の仕様を2.4GHz帯の周波数に改められ技適を受けた日本仕様となる。

 この仕様変更で生じた費用は必然的に販売価格に上乗せされることにより、海外販売価格に比べて3割から、まれに10倍以上の価格で販売されることが常態化している。日本の電波法によるドローンの電波の仕様の事情だけで見ても、民生利用とともに自衛隊のドローン導入コストが割高になっているのはご理解いただけるだろう。

2.4GHz帯の電波は伝送速度が遅く、
ドローン本体を目視しないと操縦は危険

 さらに技術的な観点から見ると、前述した通り日本では2.4GHz帯の電波を使用するのはドローンだけに限らず多くの人が日常的に使用するスマホ、WiFi、Bluetooth機器なども同じ、あるいは近い周波数の電波が使用されている。この影響で電子機器同士の電波の干渉や障害が発生しやすい実態がある。

 身近な例として挙げるなら、近年特に普及したBluetoothイヤホンが満員電車内や電子レンジが動作する環境で音が途切れたり遅延が発生した経験はないだろうか。それこそが電波の干渉による障害であり、同様の現象がドローンにも当然発生するのである。

 そもそも2.4GHz帯は機動性が高く途切れにくいという特性もあり、入り組んだ構造の室内等では有効とされているが、屋外での使用が主になるドローンに関して言えば、5.8GHz帯をはじめとする5GHz帯に比べて伝送容量も少なく伝送速度も遅い。そのため、ドローンのカメラから手元のコントローラーに送信される映像にも遅延が発生するので、映像を見ながらの操縦にもリスクが伴うなど、デメリットが多い。

2022年11月、ドローンのコントローラを持つウクライナ軍兵士2022年11月、ドローンのコントローラを持つウクライナ軍兵士。ヒラタ氏によると、物陰に身を隠しつつ、ドローンからコントローラに送られる映像を見ながら一人で目視外飛行しているところで、これが本来の使い方だという Photo:Global Images Ukraine/gettyimages