総予測2023#70Photo:Colin Anderson Productions pty ltd/gettyimages

2022年末に日本政府は防衛3文書を改定し、安全保障戦略を大転換。同時に防衛予算を43兆円まで引き上げて大盤振る舞いする方針を固めた。ところが、防衛予算の使い道について精査がなされたとは言い難い。特集『総予測2023』の本稿では、安保議論で欠如していた三つの問題を取り上げる。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

「週刊ダイヤモンド」2022年12月24日・31日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

日本の安保戦略が迎えた歴史的転換点
「防衛3文書」改定で欠如していた三つの視点

 掛け声倒れに終わってしまうのか──。

 日本政府は、2022年12月に防衛3文書を改定し、安全保障環境の激変したことを理由に、敵の基地への反撃能力を保有するなど安保戦略を大きく転換した。

 防衛3文書とは、防衛・安保の基本指針となる「国家安全保障戦略」、向こう10年の防衛力の在り方を規定する「国家防衛戦略(旧・防衛計画の大綱)」、実際の主要装備計画を明示する「防衛力整備計画(旧・中期防衛力整備計画)」のことをいう。

 防衛3文書の改定に合わせて、防衛予算計画も大幅に見直した。23年度から5年間の防衛関係費に43兆円を投じ、現行計画の25.5兆円から約1.6倍の規模へ大幅に引き上げる。

 23年度単年の6兆円半ばから年度ごとに1兆円ずつ上乗せしていき、最終年度の27年度に11兆円レベルに達する予定。これで、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に目安として示してきた「防衛関係費は国内総生産(GDP)比2%以上」という水準に並ぶことになる。

 中国、ロシア、北朝鮮の軍事力強化により、日本の安全保障環境は戦後最大の危機を迎えているといっていい。防衛力を強化するために金を投じることに異論を差し挟む向きは少数派だろう。

 ところが、22年末に防衛費増額のアナウンスとセットで政府が1兆円を超える財源を増税によって賄う方針を示したことで、野党のみならず与党内からも反発が高まっている。

 増税は法人税を軸に据えているとみられるが、財源を(将来世代に負担を先送りすることになる)国債で賄うべきという意見もあることから、23年も財源を巡る議論では一悶着ありそうな雲行きだ。

 それだけではない。そもそも防衛3文書の改定期限に間に合わせるために、防衛予算の「規模の積み増しありき」で議論が進んできた背景があり、その使い道について精査がなされたとは言い難い。

 少なくとも、以下の三つの視点を取り入れた“フルパッケージ”の防衛戦略に基づいて予算が投じられるべきだ。次ページでは、防衛戦略の“研ぎ澄まし”には欠かせない三つの視点を取り上げる。