ロシア・ウクライナ戦争でのドローン運用に刺激を受けた日本の防衛省・自衛隊は、防衛費増額の潮流に乗って、ドローンの本格的導入へとかじを切り始めた。北東アジアでは武装ドローンを保有していないのは自衛隊とモンゴル軍という状況だったが、防衛力整備計画では5年間で1兆円を投じることが決定された。しかし、このままではその1兆円も無意味なものになりかねない。ドローン本体を調達したとしても、運用に関する制度や体制が整っていないからだ。(安全保障アナリスト/慶應義塾大学SFC研究所上席所員 部谷直亮)
北東アジアで武装ドローンを保有しないのは
自衛隊とモンゴル軍だけだった
これまで防衛省・自衛隊は、ドローンを玩具扱いしてきた。その結果、北東アジアで武装ドローンを保有しないのは、現状では自衛隊とモンゴル軍だけという情けない状態だった。ある防衛省幹部は「自衛隊は、民生技術は民間が研究するものと決めつけ、自分たちはほとんど研究せず、その結果、宇宙、サイバー、特にドローンを軽視してきた」と解説する。
しかし、ロシア・ウクライナ戦争で両軍がドローンによる“新しい戦い方”を展開し、かくかくたる戦果を上げていく中、ようやく来年度の概算要求で「ドローンはゲームチェンジャー」と防衛省は認め、ミサイル防衛に続く優先度の高いテーマだとした。策定された国家防衛戦略では7項目中3番目の重点項目としてドローンが特筆され、防衛力整備計画では5年で1兆円の予算があてがわれた。この豹変には、特に与党の国防族らの尽力が大きいとされる。文民統制の成功例と評するべきだ。
政府は重い腰を上げ、防衛費増の指針を示した。その潮流に乗って、ウクライナにおけるドローン運用に刺激を受けた防衛省・自衛隊は、自分たちもドローンを本格的に導入してみようとなったが、あくまでも「ドローンを買えばいい」というこれまでの“お買い物”重視の防衛力整備であり、法制度やドローン周辺の物的・知的インフラ整備が現時点では進んでいない。公開された三文書では電波に関する規制では前進できそうな兆候もあるが、本稿で指摘する規制には触れていない。
このため有事でもすぐにドローンを政府中枢、原発、空港、多くの在日米軍基地や自衛隊施設などで飛ばせない不可解な規制がある。