プロ野球現役時代に117勝を挙げ、MLBのニューヨーク・メッツでもプレーした名投手・小宮山悟。彼が母校・早稲田大学野球部の監督に就いたのは2019年1月。スローガン「早稲田大学野球部を正しい姿に戻す」を掲げてチームづくりに取り組み、早朝から夜までグラウンドに詰めて、じっと部員たちを観察する。能力とやる気を見抜き、最善のタイミングでアドバイスする。小宮山悟のチームビルディングも5年目のシーズンを迎える。(作家 須藤靖貴)
「早稲田野球部を正しい姿に戻す」
小宮山監督の5シーズン目突入
早稲田大学野球部の始動は1月5日から。東京・東伏見稲荷での初詣である。本拠の安部球場から、部長、監督、選手らがそろって参拝に向かう。
石段を上った山門で彼らの到着を待っていると、小宮山悟監督を筆頭に、白い帽子に臙脂(えんじ)のウインドブレ―カー姿の部員たちが厳かに上ってくる。穏やかな青空の下、色味のコントラストが良い。毎年この風景は変わらず、私にとっても5回目の東伏見稲荷の初詣となった。
お酒を飲まない小宮山には、正月太りということがないのだろう。引き締まった体躯は部員たちの輪の中心にいて遜色がない。そのはつらつとした立ち居は、そのまま2023年のチームの充実ぶりを表しているようだ。
「早稲田大学野球部を正しい姿に戻す」とのスローガンを掲げて5年目。監督ナンバーの30番を背負った当初は「我慢、我慢」が口癖だった。「部員たちとの我慢比べだ」とも語っていた。2019年のこの日。久しぶりに母校のユニホームをまとい、背筋を伸ばして神殿に入った小宮山は目を疑ってしまう。4年生幹部のソックスに穴が開いている。大事なスタートの日にそんな心構えで臨むのか……と、その目を伏せた。そんなこともあったのである。
今季の主将は森田朝陽(高岡商)。副将は熊田任洋(東邦)。キャプテンナンバーの「10」を誰に授けるか。ここに小宮山のフィロソフィーが色濃く表れる。