新しい製品やサービスの開発にはリサーチが不可欠だ。しかし、定量データやロジカルな市場分析、常識を追認するアンケートから、オリジナルなアイデアを生み出すのは難しい。ユーザーの心に刺さる新しい価値の創造のためには、リサーチをもっとクリエイティブにしなければならない――そう語るのが、ビジネスデザイナーの佐々木康裕氏だ。今「クリエイティブリサーチ」に取り組むべき理由と具体的なプロセスを聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、坂田征彦、構成/フリーライター 小林直美)
リサーチのパワーは過小評価されている
――従来のリサーチと、「クリエイティブリサーチ」の違いを教えてください。
簡単に言うと、定量から定性へ、論理から感性へ、モノから人間へ――と、リサーチの重心をよりクリエイティブにすることで、情報のインプットの枠を広げ、アウトプットの質を高める手法です。従来のリサーチとの根本的な違いは、三つの観点から説明できます。第一に、プロセスにおいては「答えより、問いを探す」ことを重視します。第二に、アウトプットは「データ主体のコンテンツではなく、他者を説得するプレゼンテーション」となります。第三に、リサーチャーのマインドセットとして「緻密さより、創造性」を志向します。
――リサーチがクリエイティブになると、イノベーションが生まれやすくなるのでしょうか。
常にイノベーションにつながるとはいいませんが、差別化には確実につながります。定量データとロジカルな分析から新しいプロダクトを生み出すこともできますが、もし他社が同じデータとロジックを使えば、必然的に同じプロダクトにたどり着いてしまう。
一方、クリエイティブリサーチでは、定性情報と、そこから得られるインサイトを重視するので、いい意味で再現性が低くなります。結果的に、独自性があり、競争優位性のある商品開発につながりやすくなります。また、リサーチの過程で人々が根本的に求めていることをあぶり出していくので、リサーチのアウトプットがそのまま「事業アイデア」になりやすい。とてもエキサイティングで楽しい作業です。
――一般的な「リサーチ」のイメージとずいぶん違いますね。
そうですね。残念ながら企業内のリサーチ部門は製品企画と分断されていることが多く、そのアウトプットも、関連部署にレポートを提出するだけ、になりやすい。レポート自体もデータの羅列で、読んだ人をワクワクさせるものになっていません。リサーチのポテンシャルを最大限に生かし切れていない現状をどうにかして変え、リサーチの地位を向上させたい。そう思って手法の体系化や普及に取り組んでいます。