「デザイン経営」が効く企業、効かない企業

デザインの力を経営に生かし、企業の競争力の源泉とする――。近年注目を集めている「デザイン経営」。考え方はシンプルだが、企業の立ち位置や個性によって、取るべきアプローチは異なる。特に、これまでデザインとの接点が少なかった企業ほど、何を入り口とし、どこを目指すべきかで迷う点が多いのではないだろうか。本連載は、「『デザイン経営』宣言」策定のコアメンバーの一人であり、さまざまなプロジェクトで企業を支援するTakram代表の田川欣哉氏が、豊富な実例を通じて、デザイン経営導入のヒントを示していくものだ。本編スタートに先駆けて、現在地とアウトラインを確認する。

議論の「延長戦」から生まれたデザイン経営宣言

「『デザイン経営』宣言」が2018年5月に経済産業省と特許庁から発表されて、もうすぐ5年がたつ。本宣言は前年に立ち上がった「産業競争力とデザインを考える研究会」での議論をもとにしたもので、私も研究会のコアメンバーとして宣言作りに関わった。ただし、本研究会が最初から宣言作りを目的にしていたわけではない。

 当時、特許庁には「知財関連制度のアップデート」という課題があり、本研究会も、意匠法の改正に向けての情報収集が主眼だったと聞いている。しかし、多様な専門領域を持つデザインの実務者や経営者が集結した本研究会でデザイン論が白熱。自らも積極的に議論に参加されていた特許庁長官(当時)の宗像直子氏から、「デザインが産業に与えるインパクトについて、もう少し深掘りしてみては」という提案があり、研究会は年度をまたいで延長されることになった。アジェンダも「デザインを日本の力に転換するには何が必要か」という、より戦略的なものに再設定され、膝を突き合わせて忌憚ない意見を交わす濃いミーティングが重ねられた。「『デザイン経営』宣言」は、主にこの「延長戦」での議論から生まれたものだ。