「6歳の息子が、会えないまま火葬される」
路地裏で秘密裏に遺体と面会させてあげることも……

「コロナ禍の3年間は、多くの家庭がこのような境遇だった。昨年4月から2カ月間のロックダウンの期間中も、たくさんの凄惨な状況を見てきた。その時は、病院で亡くなった人は火葬場に直送されていたので、入院中はもちろん、亡くなってからも親族との対面が許されなかった。

 ある時、6歳の男の子が病院で亡くなったことがあった。両親も祖父母も、入院中ずっと会えずにいた。せめて火葬される前に一目会いたいと相談されて、遺体を火葬場に送る途中、事前に家族と約束したある路地裏でこっそりと会わせたのだ」(李さん)

 ロックダウン中はこうしたケースが珍しくなかったため「あまりに気の毒で、ロックダウンの間に、親族が遺体と対面したいという要望があれば、規定があるとしても、我々はできるだけ対応していた」と李さんは話す。

第一線の医療関係者に一時奨励金を支給
しかしそれよりも……

 彼らの体験談を聞いて、筆者は改めて心から尊敬の意を抱いた。この3年間、新型コロナウイルスと国の政策に翻弄されつつも、呉さんや李さん、段さんのように善良な人たちの献身的な支えがあったからこそ、中国の人々は救われていたのだ。

 1月初旬、上海市政府は、コロナ感染治療にあたる第一線の医療関係者らに6000元(約12万円)を一時奨励金として支給した。これは、市民から絶大な支持を得た。「6000元は少ない。もっと差し上げるべきだ!」「医療従事者は我々の救いの神だ」などの声がSNSにあふれたのだ。そしてマスコミも、大きな災害の後、いつも第一線で大きな犠牲を払うこれらの人々に賛辞を惜しまない。「最美医生、最美睡姿」(もっとも美しい女医、もっとも美しい寝顔。あまりの疲れでつい寝てしまったという意味)など称賛の言葉が飛びかっていた。

 その話をすると、新年会に出た人たちは皆、「そんなに感謝されなくて結構だ。私たちの仕事にケチをつけたり、差別したりしないで、理解してくれるだけで十分満足」と口をそろえていた。なぜなら中国では、葬儀や介護などの職種に対しての偏見が強く残っている。さらには病院を破壊したり、医師や看護師を襲って大けがを負わせたりといった事件まで起こっているからだ(参考記事:中国医療の過酷な現実、エリート中間層でも一寸先は医療費破産)。

 中国における新型コロナウイルスの感染者数や死者数は12月末~1月上旬にピークとなり、春節を迎えるころにはかなり低いレベルに落ち着いた。新年会で話を聞かせてくれた友人だけでなく、中国中の医療従事者や葬儀場で働く人たちがゆっくり体を休めていることを願うばかりだ。