ゴータム・アダニ氏はこの国の至る所に存在する。道路沿いの看板や空港、アダニ氏が運営する荷役用ドックにはその名前が貼られている。アダニ氏の発電所が作り出す電力でムンバイの高層オフィスビルに明かりが灯り、農村部の田畑に水が供給される。燃料に使われているのは、遠くはオーストラリアの鉱山からアダニ氏が輸入する石炭だ。アダニ氏は最近、防衛産業やメディアへの進出も果たした。空売りで知られる米投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが先月、アダニ・グループ――エネルギー事業とインフラ事業を手掛けるアダニ氏の複合企業体――が広範囲にわたる詐欺を行っているとするリポートを公表すると、深刻な影響が広がった。アダニ氏が運営する企業の株と債券の価格は急落し、投資家は数十億ドルの損失を被った。両者は激しく対立し、アダニはインド国家そのものへの攻撃だと反発した。今月1日にはアダニ氏の旗艦企業アダニ・エンタープライゼスが最大25億ドル(約3280億円)の株式売り出しを撤回した。