企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

部下を見れば上司がわかる――ミラー効果

 以前、有線放送の経営番組の司会を、一年半にわたって務めさせていただいたことがあります。

 毎回、注目されるベンチャー企業の社長に登場していただき、私と対談するという一時間の番組でした。

 あるベンチャー企業の社長との収録の際、数名の若手社員が同行してきました。そして、番組が終わった後の、控え室でのことです。

 初老の社長の話を、二十代と思しき若者たちが一所懸命に聞いているのです。社長が中座している時に、それとなく聞きました。

「みなさんから見て、社長はどんな方ですか?」
「社長からは、学ぶことばかりなんです。今日も何かを学びたいと思って、同行させていただきました」

 社長が戻った時、さっそく若手社員に対する人材育成のノウハウについて聞いてみました。

「社員から学ぶこと。それだけだよ。最近の若者は、私の知らないことをたくさん知っているんだ」

 上司から見れば、部下は未熟に見えます。しかし、未熟な人間とは、自分に比べて知識や経験がないだけのことです。

 ところが、もしかするとその生き方は未熟どころか、学ぶことばかりかもしれません。何事にも興味を示し、理想で物事を考え、とにかく行動してみようとする。

 いつの間にか、上司が忘れていたものを、彼らはその生き方で教えてくれていると言ってもいいでしょう。

 そして上司が部下から学ぼうとするほど、部下も上司から学ぼうとするようになるのです。

親が子から学ばなければ、子は親から学べない

 上司に部下の様子を聞けば、上司のことがよくわかります。

 よく上司が部下について話をする時、私はその人自身のことを言っていると思って話を聞くことがあります。

「うちの職場はどうも暗い」
(この上司が職場に行くと、みんなも暗くなるんだな)

「最近の若者は、自分のことしか考えていない。夢がない」
(この上司に夢がなく、みんなに夢を語っていないんだな)

「私の部下は、どうもやる気がない」
(この上司にやる気がないんだな。仕事は辛くて大変なもの、と思っているのかもしれない)

 つまり、職場が暗いと言う明るい上司もいなければ、反対に職場が明るいと言う暗い上司もいません。職場が暗いと言うのは暗い上司で、職場が明るいと言うのは明るい上司です。

 自分のまわりの他人を見れば、自分がこれまで他人に何をしてきたのかがまるで鏡のようによくわかります。

・まわりの人にやる気がないのは、自分にやる気がないから。
・まわりが助けてくれないのは、今までまわりのことを助けてこなかったから。
・まわりを笑顔にするためには、まず自分が笑顔になればいい。
・部下が話を聞かないと言う前に、部下の話をよく聞くようにする。 

 自分が相手に求めていることは、まず自分から相手に与えることです。他人は鏡なのです。自分がやったことが自分に返ってくるだけなのですから。

 このことを鏡になぞらえて、「ミラー効果」と言います。

「どうしてこの人は、こんな行動をするのだろう?」
「どうしてあの人は、あんな発言をするのだろう?」

 これらのように、相手のことばかり見ているようでは、根本的に問題を解決することはできません。相手は自分のことを教えてくれているのです。

 上司と部下の関係においてもまったく同じです。大切なことは、部下に教えるよりも、部下から学ぶことです。

それができてこそ、部下も上司から学ぶことができるようになるのです。