スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書。
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星:リクルートで培ってきたビジネスの知識や経験は豊富だったと思いますが、まったく異なる中学校の校長になるとは、相当の熱意と覚悟があったと拝察します。
最初に担当した学校について、詳しく教えてください。
藤原:まず担当したのは杉並区立和田中学校です。
ちょうど私が入る2年前に警察沙汰になるトラブルがあった影響もあり、入学希望者が激減してしまい、杉並区にあった23校の中で一番小さい規模でした。
もしかすると、私に校長をやらせてみてダメだったらつぶしてしまえばいいくらいの目論みだったのかもしれません。
ただ、私が校長に赴任してから全校生徒数は170名から320名になり、学力も最初は23校中21番目くらいでしたが、8年後には英・数・国で区内トップになったんです。
星:それはすごいですね。一体どんなところを変えていったのですか?
藤原:1年間でおそらく約100ヵ所は変えました。
まずは教育目標から。
教育目標は学校によって異なるものの、だいたいどこの学校も4~5つは目標を掲げています。
ですが、私が直接、先生方に、
「うちの学校の教育目標は何でしたっけ?」
と聞いてもほぼ誰も即答できない。
これではダメですよね。
目標は全部暗唱できないと! 誰でも口ずさむことができることが大切です。
当時の和田中学校にも、ありがちな教育目標が4つほどありましたが、私が1つにまとめました。
「自立貢献」というたった4字。
あれから十数年経っていますが、和田中は今もその教育目標で走っています。
星:目標や理念が文字としてあり、誰も暗唱できないのは、まったく教職員の心に響いていない証拠ですね。
アメリカでも学校の認可を得る際に教育理念について詳しく問われます。
どんな理念なのか、理念の見直しを最近いつやったのか、理念をどれくらい意思決定に使っているかなど。本当に基本のキだと思います。
藤原:あとは、地域社会を積極的に巻き込んでいったことも大きな変化でしたね。
地域には、海外でバリバリ働いていた経験豊富な団塊世代や、将来教員を目指している大学生、塾の先生がたくさんいて、彼らも地域社会の大事な教育資源だと考えました。
もはや学校を職員室の先生だけで経営するのは間違いなんです。
なぜなら子どもたちはどんどん多様化していますし、社会はますます複雑になっています。
そんな中で20~30人の先生だけで何百人もいる生徒の面倒を見ようとすることは無理です。
そこで、地域の人たちを教育に巻き込んだ活動の1つが、土曜午前に3コマの特別授業を設けた「土曜寺子屋(通称:ドテラ)」です。
お年寄りや、将来教師になりたい大学生を集めて放っておくと、宿題をやってこないような子たちも、わからなくなったときに、すぐに聞けるお兄さんやお姉さんがそばにいて教えてくれるから大好評。そんな場所ですね。
これが1つのモデルとなり、今では「地域学校協働本部」という名で、全国2万校の小学校と1万校の中学校、計3万校のうち、約7割に普及しています。
星:素晴らしい取り組みですね。
特に生徒の学力を向上させるために、意識されたことや具体的な施策はありますか?
藤原:当時の和田中は、英語と数学の授業が週にそれぞれ3コマしかなく、これでは学力が上がらないと思いました。
そこで50分授業を45分に短縮。
週あたりのコマ数を4コマ増やし、英・数・国を1コマずつ増量しました。
これは学力アップに大きく貢献しましたね。
後に、指導要領が改められ、この「英数4コマ制」が全国の中学校で採用されることにもなりました。