日常生活はもちろん、ビジネスにおいても、人生においても、人は多くの選択を迫られる。大事なことであればあるほど、「あれもこれも」と考えてしまい、なかなか決められないという人も多いのではないだろうか。そんな時、私たちは「選択肢が多すぎる!」と思いがちだが、なかなか決められないのは、実は「判断基準が多すぎるからだ」という。そう指摘するのは、『自分のアタマで考えよう』の著者で、社会派ブロガーのちきりん氏だ。判断基準が多いとどのような問題があるのか。そして、どうすれば大事なことを決断できるようになるのか。本書の内容をもとにご紹介する。(構成:神代裕子)
判断基準に優先順位をつけることの重要性
人生は選択の連続だ。
「今日のランチをなににするか」「新しい服はどれを買うか」などを決めるのに時間を費やすのは個人の自由だが、ビジネスや人生の大事な局面ではそうもいかない。
決められた時間内、もしくはできるだけ早く、「もっとも良い」と思われるものを選択するように迫られる場面は多々ある。
そんな時に役立つのが、「『判断基準に優先順位をつける』という考え方だ」と、本書の著者・ちきりん氏は主張する。
たとえば、婚活をするときも、人を採用するときも、「こんな人がいい」という条件は挙げれば、キリがない。
しかし、そのようにしてたくさんの条件を挙げてしまうと、判断基準が多すぎて「理想の人が全然いない」となってしまうのだという。
大事なのは、理想の人・完璧な人を探すことではなく、「(婚活や採用において)大事な条件をひとつかふたつに絞り込むこと」と、ちきりん氏は教えてくれているのだ。
「優秀な学生」よりも「自社に合う学生」を
大企業の採用担当になったとして考えてみよう。
一体どのような条件で学生を採用すればいいのだろうか。
ちきりん氏は、「独断と偏見で決めつければ、日本の大組織で成功するために必要な条件はずばり、『我慢する力』と『空気を読む力』でしょう」と述べる。理由は次のとおりだ。
では、この2つの条件を満たせない人を採用した場合はどうなるだろうか。
たとえ能力が高くても我慢する力の低い人を雇ってしまうと、大企業や大組織の時代錯誤さや理不尽さに耐えかねて、早々に辞めてしまいかねない。
また、我慢する能力が高くても空気を読む力が低い人を雇うと、青臭い正論を振り回すため“大人の社会”に混乱を生じるリスクがある。
「自社が必要とする人材に、もっとも欠かせない要素は何か」を真剣に考えて絞り込んでいくことで、本当に会社にマッチする人材を採用することができるということだ。
一番重視すべきことは何か。選択に迷った時は、まずはそこをしっかり考えるようにしたいものである。
判断基準を明確化するのは「目標の姿」
この「判断基準をひとつかふたつに絞り込む」という手法は、なんと国の政策議論にも有効なのだそうだ。
しかし、現在の日本では、国の政策に優先順位をつけるための判断基準が明確になっていない。
ちきりん氏はその理由を「国全体として目指すべき目標の姿が見えていないから」だと指摘する。
確かに、「製造業」や「モノづくり」の国として生き残ることを目指すのか、第三次産業に経済成長の源泉を移していきたいと考えるのかで、取るべき政策も大きく変わる。
では、どうすればその「目指すべき目標の姿」を決めることができるのだろうか。
「政治家も政党も個別政策ではなく、『日本は今後、どんな国を目指すのか』を掲げて争うべき」というのがちきりん氏の主張だ。
選挙を通して、「目標の姿」が国民に選ばれれば、次は「その姿を実現するためによりどころをすべき判断基準」が明確になり、最後にその基準に沿って個別の政策を取捨選択すればよい、というのだ。
ちきりん氏が指摘する通り、判断基準がないままに個別の政策を検討すると、すべてが必要な政策に見えてしまう。
しかし、予算に限りがある以上、そのような方法を取り続ければ、いずれ破綻してしまうのは目に見えている。
「もっとも大事な判断基準」をもとに絞り込んでいかなければ何も決まらないのは、婚活も採用も、国の政策であっても同じなのだ。
判断基準を絞り込むと本質を抽出できる
結婚相手のような人生を左右するものを決めるときに、たったひとつかふたつの条件に絞り込んでしまってもいいものなのかと不安に思う人もいることだろう。
しかし、詳細を挙げれば限りなく条件が出てきてしまい、何も決まらなくなってしまう。
重要な判断基準を絞り込むという作業自体、なかなか大変ではあるが、ここをしっかり考えて決めることで、細かいことに捉われず、本当に大事なものを抽出することができるようになるのだ。
大きな決断を迫られているがなかなか決められない人は、ぜひ本書の方法を参考に「自分や自社にとってのベストな選択」をしていただきたい。