「一見、根拠のなさそうな直感」を現実に重ね合わせられる人・企業が、いま、マーケットに強烈なインパクトを与えている。そう語るのは、P&G、ソニーで活躍し、米国デザインスクールで学んだ最注目の戦略デザイナーであり、『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』著者・佐宗邦威氏だ。彼の提案する「直感と論理をつなぐ思考法」は、先が見えない時代に必要な「感性ベース」の考え方。論理一辺倒の思考法に違和感を抱く人たちに大きな共感を呼んでいる。本書は、岡田武史氏(FC今治オーナー・元サッカー日本代表監督)や入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール准教授)など各業界のトップランナーたちに絶賛されているベストセラーだ。
今回は、本書より一部を抜粋・編集し、「目標達成のための2つのアプローチ」について紹介する。(構成:川代紗生)

直感と論理をつなぐ思考法Photo: Adobe Stock

目標達成のための2つのアプローチ

「背伸びは必要だが実現可能な目標」と「実現できないくらい途方もない目標」。

 あなたは目標を立てるとき、どちらを選択しているだろうか?

「よい目標」とは、いったい何だろうか。

 実際には、二者択一的なものではなく、状況によってアプローチは異なる。

「死ぬまでにやりたいこと」を思い浮かべるのか、営業成績を上げる方法を考えるのかによっても、目標の立て方は変わってくるだろう。

 では、どのように使い分けたらいいのだろうか?

 『直感と論理をつなぐ思考法──VISION DRIVEN』の著者・佐宗氏は、「思考のアプローチは大きく2つに大別できる」と語っている。

1. イシュー・ドリブン(Issue-Driven)的アプローチ
すでに顕在化している課題に対して、それを解決していく
2. ビジョン・ドリブン(Vision-Driven)的アプローチ
まだ目には見えない理想状態を自発的に生み出し、そこと現状とのあいだにあるギャップから、思考の駆動力を得ていく

「イシュー・ドリブン」の弱みとは

 おそらく、普段の生活では、前者の「イシュー・ドリブン」なアプローチをしている人が多いだろう。

 この思考法について、本書ではこう書かれている。

イシュー・ドリブンな思考のモットーは、「Commit Low, Achieve High(小さくはじめて、大きく育てる)」である。すでに顕在化している課題はもちろんだが、隠されている課題を発見し、それらを”潰して”いくことで、少しずつ着実に進んでいく。(P.96)

 イシュー・ドリブンは、企業や組織が直面する問題に焦点を当て、それらの問題を解決するための戦略を策定するアプローチだ。

 顧客のニーズや競合他社の強みや弱み、業界全体の動向などを分析し、多少の背伸びは必要でも「実現可能な目標」を立てる。

 数値目標を立てるときも、「前年比110%成長」のように、現在の数値から推定することが多い。

 一方で、目の前の目標を着実に達成していくこのアプローチには、マイナス面もある。それは、「達成できそうな目標」以外にチャレンジしなくなることだ。

イシュー・ドリブンなアプローチに偏ると、解決へのマイルストーンが見えている(ある意味ではイージーな)課題ばかりに取り組んでしまう。そうすると、組織からはイノベーションを創出する素地が、個人からはやりがいやクリエイティブなものの見方が失われていく。(P.97)

「妄想」を「論理」に落とし込む「ビジョン思考」を磨こう

 一方、ビジョン・ドリブンの特徴は何だろうか。

 イシュー・ドリブン的戦略に慣れている人にとっては、実現できるかもわからない高すぎる目標を立てることは、ときにナンセンスに感じるかもしれない。

 事実、筆者も「妄想」とも言えるような、大きすぎる目標を立てることに、抵抗がある。人に公言するにせよ、自分の心の中に留めておくにせよ、夢見がちとも言えるような目標を立てることに、恥ずかしさを覚えてしまうのだ。

「もういい大人なんだから」
「期待しすぎて失敗したら嫌だ」

 このように、理性的な自分が、「妄想」にストップをかけてくる。

 しかし佐宗氏は、「妄想」を開放して大きな目標を描く「ビジョン思考」、言い換えれば、「単なる妄想」を「地に足のついた戦略」にまで落とし込む考え方への見直しが進んでいると語る。

 ハーバード・ビジネススクールの学生たちも、「本当に世の中を変えられるかもしれない Big Idea に集中せよ」と教えられるという。

10%成長よりも、10倍成長を目指すほうが簡単

 本書には、このような興味深い考え方についても解説されている。

 なんと、「10%成長を目指すよりも、10倍成長を目指すほうが簡単」だというのだ。

 数値的に考えれば、当然、「10倍成長」のほうがずっと大変なはずだが、これはいったい、どういうことだろうか。

 佐宗氏は、この「10%のカイゼンよりも、10倍にすることを考えろ」というアイデアを「シンギュラリティ大学」のエグゼクティブ・プログラムを受講した際に知ったという。

 当時学んだことについて、こう綴られている。

いまよりも10%の成長を続けるのは「努力」が必要である。いまよりも10%長く残業するという単純な発想の人はあまりいないだろうが、生産性を10%高めたり、シェアを10%増やしたりといった「がんばり」が求められるのはたしかだ。
他方、10倍の成長は、その種の努力では到達不可能だとわかっているので、根本的に別のやり方を考えるしかない。途方もなく大きな目標があると、個人の創造力や内発的な動機に訴えかけるアプローチを取らざるを得なくなり、「努力」の呪縛から自分を解放することができる。(P.100)

 たとえば、英語を話せるようになりたい人が、「TOEIC100点アップ」と短期的な目標だけを立てていると、「努力」が必要になるかもしれない。あるいは、帰宅後に問題集に向かう時間が苦痛になる可能性もある。

 だが、「大ファンのハリウッド俳優に、英語でインタビューしたい」と、妄想とも言えるような目標を立てたとすれば、どうだろう。語学試験の勉強をする以外の方法が出てくるかもしれないし、思い切って海外での仕事を探す、という選択肢も出てくるかもしれない。

「そんな妄想、叶えられるわけないよ」という思い込みにとらわれていると、目標達成のための有効なアプローチや、意外な抜け道も見落としてしまう。

 もちろん、イシュー・ドリブン的アプローチが適した場面もあるし、私たちはこれから先も、その場に応じた思考法を使い分けていかなければならないのだろう。

 しかし、もしこれまでビジョン・ドリブン的アプローチ、とくに、「絶対に無理」と言われるような妄想レベルの目標を立てることにトライしてこなかったのなら、ぜひ一度、試してみてほしい。

 本書には、自分が心の底からやりたいことを探るための具体的なワークが列挙されている。

 固定観念で凝り固まった脳がほぐされていく、不思議な感覚を得られる。

 1ページ1ページ、赤線を引き、余白にメモし、時間をかけて読み進めてほしい一冊である。