終電ギリギリまで残業しているのに仕事が終わらない人と、必ず定時で帰るのに成績No.1の人。この差はいったい何だろう? 努力が成果に反映されない根本的な原因はどこにあるのだろうか? そんなビジネスパーソンの悩みを本質的に解決してくれるのが、大注目の新刊『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム』だ。
著者は、東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」第1位、フォーブス アジア「アジアの優良中小企業ベスト200」4度受賞の北の達人コーポレーション(東証プライム上場)社長木下勝寿氏。
本書 の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みをぶつける特別企画がスタートした。経営の最前線で20年以上、成果を上げられる人と上げられない人の差を徹底研究してきた木下社長にロングインタビューを実施。第19回目は、「優秀な経営者の共通点」について、教えてもらった。(構成・川代紗生)

【驚くかもしれませんが】デキる経営者ほど「リスクを負ったチャレンジ」をしない理由

「絶対に失敗できない」
資金不足の中で編み出した成功法則

──『時間最短化、成果最大化の法則』には、「私はこれまで『リスクを負ったチャレンジ』は一切していない」「売上100億円以下程度のビジネスなら、リスクを負わなくてもできる」と書かれていました。

木下勝寿(以下、木下):売上100億円以下のビジネスをやっている場合、先人たちの情報や知恵がたくさん残っています。

 丁寧に調べれば、実にさまざまなデータを得られます。

 私はその中から、事業成功のアイデアをたくさん得ました。

 そのようにして先行事例を研究し、テストマーケティングを行い、きっちり計算すればだいたいの成功確率は見えてきます。

 私はこれまで一度も「一か八か」の勝負に出たことはありません。

 常に確率の高い方法を実行し続けてきました。

──型破りな挑戦が得意な人が、経営者として成功するイメージだったので、とても驚きました。

木下:起業当初、圧倒的な資金不足で「失敗=即倒産」だったので、小さな失敗も許されないような状態だったのです。

 だからこそ、とにかくたくさんの事例を集めました。

 不確実なものを見通せるようにするのがプロの経営者としてやるべきことであり、不確実なままチャレンジするのはただの「ギャンブル」です。

 勉強不足で社員を路頭に迷わせるわけにはいきません。

 才能やスキルに頼ることなく、「最短の時間で、最大の成果を出せる法則」はないだろうか──。そう考えて編み出したのが、本書にまとめた「思考アルゴリズム(考え方のクセ)」でした。

インターネット黎明期に「EC事業」を開始

──「北の達人コーポレーション」では、健康食品、化粧品、雑貨など、さまざまなプロダクトの企画開発が行われています。顧客のニーズをとらえるために、創業当初から意識していることは何でしょう。

木下:当社がeコマース事業を開始した2000年代は、まだインターネットが一般に普及しておらず、EC市場も確立されていませんでした。

 そもそも「インターネットでものを買う」という習慣がなかった。

 当社のECサイトが、初めてのウェブショッピング体験というお客様ばかりだったのです。

──その頃はカタログ通販が主流で、インターネット通販にはまだ「怖い」「怪しい」というイメージもありましたね。

木下:どうすれば、お客様の信頼を得られるのだろうか、そればかり考えていました。

 創業初期から現在まで、一貫して大事にしているのは、既存市場にとらわれず、自分たちで市場を開拓していく意識です。

 既存市場の中で売れ筋を探すのではなく、お客様の悩みを解決することを最優先に考えてきました。

 たとえば、当社の代表的な商品に、『アイキララ』という、目の下専用のエイジングケアクリームがあります(注:現在はバージョンアップ版の『アイキララII』として販売中)。

 実は、「アイクリームをつくろう」と思って『アイキララ』をつくったわけではありません。

「目の下のクマやたるみを解消したい」というお客様のお悩みを解決するには何がベストだろう? と考え始めたのが企画の発端だったのです。

 開発当初は、サプリメントや美容液、ジェルなど、さまざまな候補がありました。

 さまざまなテストマーケティングを繰り返した結果、アイクリームに決まったのです。

ニーズを満たしても購買につながらない…
思わぬマーケティングの落とし穴

──モニターの意見を聞いたりもされたのですか?

木下:一般モニターに試作品をひと通り試していただき、意見を聞きました。

 一番効果が高かったのがクリームだったので、現在の最終形に落ち着きました。

 実をいうと、「アイクリーム」というカテゴライズも認識していませんでした。

「目の下のエイジングケア」という目的のためには、どんな形状がよいか? と突き詰めて考えた結果、「クリーム状」がベストだという結論に落ち着いたのです。

──モニターには、具体的にはどんなことを聞くのでしょう?

木下:企画を立ち上げた際に、わかりやすいビジュアル・文章でチラシを作成し、「こんな商品があったらほしいと思いますか?」とアンケートを行います。

パッケージの写真や画像もCGで作成する場合もあります。

──CGで! そこまでするのですね。

木下お客様のニーズをきちんと満たしていても売れない場合があるからです。

 パッケージがかわいくない、おしゃれじゃない、ワクワクしない……だから買わない。

 お客様の「理屈」と「感情」のギャップを埋めなければ、実際の購買にはつながりません。

 どんなに自分のためになると「頭で」理解していても、ビビッとくる、ときめくなど、感情が動かなければ、お客様は手に取ってくれません。

 このように、実際に手に取っていただくまでには、さまざまなハードルを乗り越えなければなりません。

 私は、「商品をつくるのが仕事ではなく、お客様に”伝わるまで”が仕事」だと思っています。

「とてもいい商品をつくった」だけでは足りない。

お客様にこの商品のよさが伝わること」が目的です。

 社員たちにどんなに「うるさい」「細かすぎる」と言われようと、とことんまでお客様目線で考える

 地味なようですが、それこそが経営者としてとても大事な姿勢だと思います。

(本稿は、『時間最短化、成果最大化の法則』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)