このところ、数年前の新聞・経済誌などを読み返している。「円高にはメリットもある」「公共事業の効果は長続きしない」「財政再建が重要である」などの主張が多々見られ、ある種の「懐かしさ」を感じている。現在とは「真逆の主張」をしている論者が結構多いと思う。特に、経済誌に掲載された覆面座談会での以下の発言は興味深かった。
『円高の影響で企業がどんどん海外移転し、国内産業が空洞化するという懸念が強まっている。だが日系自動車メーカーは1ドル=130円の水準の時でも、需要の伸びを見込んで海外生産シフトを進めてきた。実際、日産は主力モデルのマーチの製作をタイに全面移管したが、その決定に踏み切ったのは1ドル=120円の水準の時だった。企業経営者らが「産業空洞化」について触れるのは、政府の為替介入を促し、円安・ドル高に修正して少しでも営業利益を稼ぎたいからというのが本音で、実はそれほど脅威ではない』(週刊エコノミスト2010年10月12日特大号『円高「脅威論」のウソ』より)
これは、今でも企業の本音ではないだろうか。既に何年も前から、電機や自動車のような輸出企業は言うに及ばず、内需依存型の日用品・化粧品など生活関連企業までもが、海外市場に活路を求めてきた。円高を生かした日本企業の海外M&Aは過去最大水準に達している。日本企業は、グローバルな大競争に生き残るために自己変革を続けてきたのだ(第26回を参照のこと)。多少円安になったからといって、企業が海外から国内に戻ってくるわけではない。日本企業が円安を歓迎しているのは、「ケチで融通が利かない民主党政権よりはマシ」という程度のことだ。
アベノミクスの「狂乱」から冷静さを保つには、半年前くらい前の経済論考を読み返すといいようだ。
首相が政治生命を賭けない
「人類史上、歴史的取り組み」
などありえない
安倍晋三首相は、円高・デフレ脱却に向けて財政政策・金融政策・成長戦略の3本の矢で取り組むアベノミクスについて、「10年以上にわたるデフレ脱却への取り組みは人類史上歴史的な取り組みだ」と力強く宣言した。そして、まず緊急経済対策を決定し、財政支出の拡大を決めた。次に、2%の物価上昇率目標を明記し、一体で金融緩和や規制緩和を進め早期の目標実現を目指すとする政府・日銀の共同声明を決定した。経済再生の実現に強い決意を示す安倍首相の姿勢は、世論の高い支持を得ているようだ。